ココカラ────始まる

 神社についた由莉達はなかなかの人数が来ていることにびっくりしていた。言っても12時目前なのだが、年末年始の夜ふかしは恒例と言うべきなのだろう。


「……人、集まってるね」


「新年の節目だから……なのかな? えっと……あと何分ですか?」


「あと10分です、由莉さん」


 残り10分で1年が終わる──────そう思ったら、由莉は色々と感慨深い気持ちになった。


 ───────去年の今頃は……ずっと、ゲームのイベントランキング戦のために1週間寝ずにプレイし続けたのが嘘みたいだよ。このまま……ずっと……1人なんだって、あの頃は思ってた。諦めてた。従うしかなかった。受け入れなきゃいけなかった。運命になんて抗う事なんて出来ないと思ってた。だから……だからこそ、


 由莉は束ねた髪を揺らしながらふと後ろを振り返ると、自分の大切な4人の姿が全てあった。


 ──────私を受け入れてくれて、初めて……私のことを見てくれたマスター。ここに来れたのも、私の銃にも出会えたのも……マスターのおかげ。マスターに応えるためなら……私は何でも出来るよ。


 ──────いつも、やさしくて、すっごく頼りになる阿久津さん。……ちょっとからかうのはやめて欲しいけど、いつも私を気にかけてくれる。ご飯もすっごく美味しいし……練習だって、私の力を引き出そうとしてくれる。


 ──────私のために色んなことをしてくれた音湖さん。……音湖さんとは色々あったなぁ……殺されかけたりもした。でも、全部、私のためにやってくれてたから……そして、私の2人目の師匠。阿久津さんより遥かにきつかったけど、だから……私は天音ちゃんを助けられるくらい強くなれた。


 そして────────、


 ──────天音ちゃん。私の……1番の友達。初めて……人を殺した時に助けた子。記憶がなかったから……『えりか』って名前をあげて……一緒に過ごした。

 自分のことを知って離れられるのが怖くて……銃口を向けるなんて事もした。……あんな事は、もう二度としない。自分の勝手な思い込みで銃を向けるなんて……最低なことだよ。……それでも、その時の『えりかちゃん』はそんな私を受け入れてくれた。

 それからもぶつかる事も会ったけど、記憶が無くならないくらい、大きな思い出をたくさん作った。────それでも、本当の『天音ちゃん』が目を覚まして……結局、殺しあった。あの時の天音ちゃんは……殺意の塊だった。でも、負けられなかった。絶対に……助けたかった。けど……私1人じゃ、何も出来なかった。



 忘れちゃいけない……自分といつも背中合わせにいるもう1人がそこにいた。


 ───────忘れちゃいけない。もう1人の私……ううん、『ゆーちゃん』。ゆーちゃんがいなかったら……私は生きていなかった。ずっと……記憶をなくしてから誰にも知られずにその強い意志で戦ってきた。

 私を立ち上がらせようと……自分の身を滅ぼすギリギリの手段を使ってでも……ゆーちゃんは私が立ち向かう力をくれた。だから……私は人を殺す覚悟を持てた。天音ちゃんも助けられた。…………1人だと思ってたのに……ずっと、側にいてくれていた。今だって……きっと私を見てくれている。


 誰もが……今、由莉がこの場にいるために欠けてはいけなかった。誰か1人でもいなかったら……今の由莉はいない。そう思っただけで由莉はたまらなく嬉しくなった。


「えへへっ」


「ん……? 急に笑ったりなんかしてどうしたの?」


 突如として笑い始めた由莉を隣にいた天音は不審そうにその顔を見つめるも、後ろで手を組んでにっこりとした表情を天音に送った。


「ううんっ、なんでもない!」


「……変なの。……まぁ、ゆりちゃんらしいか」


 はぐらかされて不服だったが、こんな可愛い表情が見れたのだからと、天音は諦めたように肩を竦めた。


「…………それにしても、天瑠ちゃんと璃音ちゃんいないね……」


「大丈夫、あの2人なら必ずここに来る。……絶対に」


 ────────────────────────────


 冷たい夜の空気の中を天瑠と璃音は必死に歩いていた。妹の璃音の……なんだか足でまといになってるみたいで、天瑠は弱音は言わなかったが、璃音には感謝しかしなかった。


「璃音……ありがと。天瑠のために体力使わせちゃって……」


「天瑠のおかげで璃音は動けてるから、気にしないで? ……天瑠、やっぱり……身体辛いよね?」


「も〜妹に心配されるほどじゃないってば。少し歩くのが辛いだけだから、璃音は心配しすぎ」


「ご、ごめん……」


 そう言うと、少ししょぼんとする璃音だった。だが……天瑠の身体はかなり限界寸前だった。1歩歩くだけで足が震えるのだ。実質、天瑠は璃音の移動に伴って足を動かしているだけなのだ。

 それでも……そんな事を姉として妹を心配させまいと天瑠はマフラーに顔を隠しながら、歯を噛み締めるようにして、2人で神社の方へ進んでいった。


 ──────────────────────────


 〜新年まで残り1分〜


 周りからカウントダウンする声が聞こえ、いよいよ新年なのだと、由莉と天音はこころの底でワクワクしていた。周りに合わせて2人も口ずさんだ。


「「50、49、48………」」


 数字が減るにつれ、周りのボルテージが高まるように数字を叫ぶ声が大きくなる。


『28! 27! 26! 25!』


「あぅ……もう少し早く出れば良かったね」


「……そう、だね。ねぇ、天瑠のためにゆっくり歩いてるんでしょ?」


 天瑠と璃音、カウントダウンがすぐ側まで聞こえるが惜しくも、間に合いそうになかった。天瑠は璃音が自分の身を案じて動いてくれてるのが分かっていたから、少し残念そうにしている璃音に天瑠は一度歩みを止めて力の限り抱きしめた。


「あ、天瑠……?」


「……璃音、これからも……天瑠の妹でいてくれる?」


「……そんなの決まってるよ。天瑠は璃音の大好きな姉だよ? これからも……ずっと……」



『10! 9!!』


「璃音……ありがと。大好き」


『8!! 7!!!』


「うんっ、璃音も天瑠が大好き」


『6!!!』


 くすっと笑いあうと……2人もそのカウントダウンに参加する。


『5!!!!』


 天瑠は自分の声の限りを尽くして、


「4!!!!!!」


 璃音は声高らかに、その声に願いを込めて、


「3!!!!!!!」


 天音は次の1年、今度こそ全員、幸せにと願って、


「2!!!!!!!!」


 由莉は今までよりもっと幸せで楽しい1年が始まる。それを予期しているように、


「1!!!!!!!!!」






 そして────────鐘が鳴る。




「あけましておめでとう!!!!」


「あけましておめでとう!!!!」


「あけましておめでとう!!!!」


「あけましておめでとう!!!!」



 結ばれる年が────────ここに始まる。


 約束の年が、ココカラ。

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