『2』人が『2』組

「じゃあ……行くよ、璃音」


「うんっ、……1人で歩ける?」


 だいぶ温まってきた2人はそろそろかと神社に向かうことにした。璃音の手を借りて立ち上がった天瑠は腰を伸ばすように背伸びする。


「大丈夫だってば。ほんとに璃音は心配性だよね」


「だ、だって…………」


「まったく……。そういう璃音こそ、準備は出来てるの?」


 じろりと見つめる天瑠に璃音は自分のポケットに入ったショットガン専用の弾をちらっと見せると、すぐにしまった。


「……なら、大丈夫そうだね。……うっ」


「天瑠っ!」


 気を失いそうになって後ろへよろめいた天瑠を璃音はすぐに後ろから支えた。やはり……無理しすぎたのだ。我慢に我慢を重ねて来た身体が少しずつ崩れ始めてきた証拠だった。


「ごめん、ちょっとクラってしただけだよ」


「やっぱり……璃音が天瑠の分まで持ってくるよ? 天瑠……もう我慢なんてしないで……天瑠が死んじゃったら……璃音は1人で生きていけないよぉ……」


 以前より遥かに軽くなった天瑠の身体がもう限界を迎えようとしてるんじゃないか、もしかして……死んじゃうんじゃないかと、璃音はたまらなくて悲しさを込めた涙を零した。

 天瑠は無言でそんな璃音をぎゅっと抱きしめた。


「天瑠は……璃音を1人になんてさせないよ。瑠璃お姉さまにも、お姉さまにも……璃音を守ってあげてって言われてるし……なにより、璃音は天瑠の1番の宝物だから手放したりしないよ。だから、もう泣くのはやめよ?」


「ううぅ……うん……っ」


「それでこそ、璃音は天瑠の大好きな妹だよ」


 よしよし、と璃音の頭をやさしく撫でてあげた。こうやって、どんなに辛くても、苦しくても、9ヶ月以上……2人で支えあって生きてきた。だからこそ、今日まで生きてこれたのだ。


 璃音が泣き終わるタイミングを図って、天瑠はそろそろ行こうかと言ったが……それでも、不安げに瞳を揺めかせる璃音を見て、ため息をつくと、なんとか妥協してくれそうな提案をした。


「……璃音、肩……貸してくれない? それなら、いいよね?」


「う、うん……でも、天瑠が……こんなに外に出たがるなんて……珍しいね」


「たまには、ね。それに……行かなくちゃ行けない気がするんだよ」


「…………?」


 真っ直ぐな意思を璃音を貫くようにして伝えると、そんな姉の言葉を無視なんて出来ないと、自分の肩を天瑠に貸してあげた。ついでに自分のマフラーを天瑠と共有しあった。


「いつもなら……天瑠が璃音の肩を支えてるのに、いつの間にか逆転しちゃったね」


「……でも、璃音は……1人じゃなにも出来ない……天瑠とお姉さまがいないと……璃音は…………っ」


「も〜すぐ弱気になっちゃだめだってば。はい、そろそろ行くよ!」


 天瑠は璃音の肩を借りながらも、姉として先導しなきゃと、空元気で出発しようとした。─────だが、


「天瑠……そっち逆だよ?」


「……し、知ってたよっ、早く行くよ!」









 天瑠と璃音が出発しようと出る直前に────由莉たちの乗った車がすぐ側を通ったのは、双方知る由もなかった。


 ─────────────────────


「…………」


「? どうしたの、ゆりちゃん?」


「っ! いや、ここに来るのも久しぶりだな〜って……この近くに……私の家もあるからさ…………」


 懐かしさとトラウマを同時に思い出したような表情を貼り付けた由莉を見て、今は何も言わない方が良さそうだと天音は静かに由莉の手を握った。

 このままではしんみりとした空気になりそうだと、天音はなんとか別の話題をふっかけた。


「あっ、そう言えば……くずはちゃんから貰った髪ゴム、ゆりちゃんのも持ってきたけど、つける?」


「ほんと!? じゃあ……うんっ!」


 由莉は天音が持ってきてくれた瑠璃色のゴムで初めて髪を結んだ。

 最近、ボブ程度だった髪を少しだけ伸ばしていた由莉は、問題なく髪を結べるくらいには髪量があった。由莉は後ろの髪をまとめると、そのゴムを何重かに巻いてしっかりと留めた。


「どうかな……? 上手に出来てるか少し不安────」


「……ゆりちゃん、可愛すぎる……反則だよ……」


 予想以上に褒められ、照れたようにほんのり顔を赤らめる、新しい姿の由莉に天音はただ見蕩れざるをえなかった。

 ……由莉の左隣にいた音湖でさえ、同性をも虜にさせるような可愛さに、ただただ笑うことしか出来なかった。


「ねっ、天音ちゃんもやってみてよ!」


「分かったっ。髪を結ぶなんて……いつぶりかな……」


 そう言いながら髪をまとめようとする天音に由莉は少し疑問を持った。


「あれ? 天音ちゃん髪結んだことなかったの? 初めて会った時も、髪長かったからてっきりいつもやってたのかなって……」


「あっ、言うの忘れてた……ボクね、『わたし』から『ボク』にした時に、長かった髪の毛もバッサリ切ったんだよ。動く時、髪が長いと少し不便だし……。それに、今度、髪を切ってもらおうかなって思ってるんだよ」


「っ! そう……なの?」


「うん……やっぱり、髪が短い方が好きなんだよね。その方が動きやすいし……。どうかな?」


 髪を束ねながら、そう聞く天音に由莉はびっくりして多少硬直したが、他人を縛るなんて考えられない由莉は、気にしなくてもいいよと言った。

 そんな優しい由莉に天音も笑みを零しながらようやく髪を結び終えた。


「よし、出来たよゆりちゃ─────」


「かわいいよ〜〜! 天音ちゃんすっごくかわいいっ!」


「なっ!? だ〜か〜ら〜や〜め〜て〜! 可愛いって言われると……恥ずかしよぉ〜!」


 由莉に抱きつかれてそんな事を言われるものだから天音は顔を真っ赤にして車の中なのも気にせず叫んでいたが…………実のところ、由莉にそう言われて自身もまんざらでもなかったのだ。


 そうやってわいわい騒ぐ2人を音湖、阿久津、マスターは微笑ましそうに笑いながら、目的の神社へと向かっていった。


 ─────────────────────


 〜新年まで残り15分〜


 早めに着いたのはいいが、外が寒いから少し間を置いてから行こうと言うことになり、15分前になるとそろそろ頃合いかと、全員が車の中から出た。


「うぅ、ちょっと寒い……っ」


「…………うん、そうだね」


「……天瑠ちゃんと璃音ちゃん大丈夫かな……」


 ここで見つからないとなると、2人の行方を追うのが困難になると見込んでいた由莉は不安を心に残しながら天音の顔を覗いた。だが、天音の表情は信頼の2文字しか存在していなかった。







「あの2人なら大丈夫。そうそうくたばる事なんてないから…………それに、きっとここに来るから」


 ──────────────────────


「ひゃ、ひゃむい……くしゅん」


「り、璃音……風邪ひいた?」


 天瑠と璃音はなるべく風が当たらないようにしながら、神社へ向け歩いていた。

 だが、それでもこの時期の寒さは風がなくても凄まじい。吹雪いていなかったのが、せめてもの救いだったが……それでも暖めた身体もすぐに冷え、刻々と体温を奪っていく。


「この格好……動きやすいけど……寒いよ……っ」


 2人は上から防寒具のダウンコートを着てはいたが……その中は動きやすいようにと、薄い素材で作られた保温性のある黒の衣装を身にまとっていたが……それでも、この寒さを凌ぐにはあまりにも薄すぎた。


「まだ……これからこんな寒さ続くのかな……くしゅっ、うう……」


「璃音……頑張ろ? もう少しで着くから……」


 神社がそう遠くにない所まで見えてきた2人は身を寄せ合いながら、神社へとたどり着こうとしていた。









 2人と2人の交わりはすぐそこまで迫っていた。

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