続・最終節 想いの最終点
由莉は誤解されました
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「天瑠ちゃんはきっと、もっと甘えたかったんじゃないのかな〜? 天瑠ちゃんも璃音ちゃんも、本当に天音ちゃんの事が大好きなんだよ」
「そうなのかな……。さて……じゃあ、ボクの記憶が薄れた時の事を話す前に一つ話さなきゃいけないことがあるんだ」
天音は真剣な眼差しで由莉を見るとその覚悟を瞳の中に見出した由莉は、こくりと頷いて天音を見据えた。
「ボクは……由莉ちゃんの敵だ」
「…………うん、なんとなくだけど、分かってた」
「ボクがいた組織『黒雨組』は……今、由莉ちゃんがいると思う組織と敵対していた。名前を…………『RooT』」
「『RooT』……意味は……根っこ。根源……」
由莉は……その時、初めて自分の組織の事を聞かされた。
「先に言っておくと、『黒雨組』は人殺しの集団。だから……世間的な立場だと、『RooT』が正義、『黒雨組』は悪……だけどね」
「…………私、初めて聞いた」
「……は?」
「何かの組織に入ってる事は知ってたけど、何なのかはよく知らなかったよ」
「はぁ!?」
由莉の発言に天音はぶったまげた表情のまま石像のように固まっていた。そのまま暫くして……天音は病室なのも忘れて大声で叫んでいた。
「由莉ちゃん何も知らないの!?」
「ひゃ……う、うん…………」
「……だって、由莉ちゃん……まだ天瑠と璃音と同じくらいの歳で…………」
「……? 天瑠ちゃんと……璃音ちゃんって何歳?」
「あいつらは……今年で10歳になるはず。ちなみに、ボクは13だよ」
「そっか……じゃあ、多分……私は天音ちゃんより年下だね」
『多分』、その言葉に天音は妙な違和感を覚えた。年齢を明確に出しているのに、曖昧な返事しか出来ない───それはつまり、
「由莉ちゃん……もしかして、自分の歳が分からないのか?」
「うん……もっといえば、自分の誕生日も分からないし……私には4年間しか記憶がない」
天音にとってその事実は衝撃でしかなかった。4年………その間、由莉も同じように生きてきたのか……そんな『勘違い』を天音は抱いた。
「じゃあ……その間、ずっと由莉ちゃんも人を……殺してきたのか?」
「ううん。……私がここに来たのは半年前だよ」
「…………ボクの聞き違いかもしれない。もう一回言って?」
天音は何度も頭を振り頬をぶっ叩くと由莉の言葉に耳をかっぽじって聞こうとしていた。
「私がここに来たのは……半年ま────」
「人を殺した事は?」
「……2人」
「…………うそぉ……」
由莉の言葉を聞いた天音は目眩を覚え、思わず後ろにぶっ倒れた。由莉が心配になって倒れた方向を見ると、天音は笑いを隠せないような諦めのような表情で床に倒れていた。
「…………おかしいなぁ……。ボクは……ずっと……あの男を殺すために4年間ずっと頑張ってきたのに…………半年で負けちゃうのかぁ……あははははは」
「…………天音ちゃん」
「ボクは……なんだったの? ……誰よりも強くなろうって……したのに…………ボクは……」
「天音ちゃん」
「パパ……ママ…………ボク、仇を取れそうにないよ。瑠璃……ボクに会わなきゃ、瑠璃は死なずに済んだの……? ボク……もう、みんなの所に行きたい───」
「それ以上言うなら許さないよ」
天音が死にたいと口にしようとした瞬間、由莉は殺気を2人しかいない病室にぶちまけた。
ゾクッと震える感覚と共に由莉を見ると、その琥珀色の瞳がかつてないほどの怒りに塗れていた。
「逃げないでよ。今って現実から逃げれば……全部無駄になるってわかって言ってるの!? 天瑠ちゃんも……璃音ちゃんも……死ぬよ。瑠璃ちゃんが必死になって託して、思いを受け継いだ2人を殺すの?」
「…………もう、いいよ。そうなったら……瑠璃にずっと謝るから」
「ふざけるな!!」
投げやりになった天音に由莉はフラフラの状態で起き上がると、倒れている天音に馬乗りになって、力のない拳で頬を殴った。
「…………瑠璃ちゃん、心底後悔するだろうね。そんな腰抜けに任せたせいで託したことが無駄になるんだからさ!」
「……由莉ちゃん、ボクを舐めてるの?」
天音は肩を強く握って力を入れると、いとも簡単に体勢が簡単に反対になった。その目には大きな怒りと殺気が水と油のように入り混じっていた。
「ボクが由莉ちゃんを殺せないって本気で思ってるの? おい!」
「天音ちゃんに私は殺せないよ」
「この……っ!」
怒りに任せて天音は拳を振ろうとする。
その拳は────届かなかった。由莉に届く直前で勢いが完全に消え失せた。
その拳は…………震えていた。由莉を傷つけるのを躊躇っているように。
「なんで……」
「……ねぇ、天音ちゃん、あなたはどうしたいの? マスターを殺したい? 天瑠ちゃんと璃音ちゃんを助けたい? 殺すか助けるか……どっちを選びたい?」
「……ボクは…………っ」
────選べない…………
パパとママの仇を取ること……それが天音の存在意義だった。それだけが───。
なのに、今の天音には天瑠と璃音を見捨てるなんて……出来ない。
そんな崩壊しそうな天音の思いを由莉はひと押ししてあげた。
「天音ちゃんの本音は?」
「っ、選べないよ……そんなの…………っ! ボクはパパとママの仇を取るために……ずっと4年間、その為に強くなった!! でも、2人も助けたい!! あの2人を失えば……っ、もう……何のために瑠璃を殺したのか分からなくなる……っ! ボクの!大切な!!親友をっ!!!この手で殺した意味が……っ、瑠璃に……なんて謝ればいいのか分からない……っ!」
思いが結晶となり、その思いは想いとなり塊として由莉に降り注いだ。熱くて……温かい思いだった。
今の天音にはえりかとしての記憶はない。だが……えりかも天音も本質は同じなんだと由莉は確信を得た。
そして……由莉はその想いの塊をこれ以上……出さないようにと天音の瞼をそっと掬ってあげた。
「欲張りだね……天音ちゃんは。……うん、だったら……約束するよ」
「ぇ……?」
「もし、本当にマスターが天音ちゃんのお父さんとお母さんを殺したなら、私もその復讐、手伝うよ」
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