2つのプレゼント

 ー1年後ー


「…………」

「…………」

「…………」


 ボクと天瑠と璃音───3人は瑠璃のお墓の前で手を合わせていた。

 暫くして、ボクがまず1歩前に出て瑠璃のお墓のすぐ前に座った。


「……なぁ、瑠璃。天瑠も璃音も元気に生きてるぞ。……瑠璃が守ってくれてるのか?」


 ───実際にそうだから。


 出会って半年が経った頃に、ボクは2人と一緒に任務をする事になった。天瑠も璃音も緊張こそすれど、人を殺すことに対する覚悟は持っていた。……きっと、瑠璃から聞かされていたんだと思う。


 そうして、初めて2人を連れていった時、敵は6人と普段とあまり変わらない数で、いつも通り終わるかと思ったら……あまり外さない璃音がこの時に限って外してしまい、敵の攻撃を喰らってショットガンを取り落としてしまった。

 その時に、璃音は咄嗟にレッグホルスターにしまった瑠璃の形見の銃でなんとか殺すことが出来た、なんて事があったのだ。



「……瑠璃、ボクは……ボクなりに天瑠と璃音を見守っていくよ。……じゃあ、天瑠に変わるね」


「…………」


 ボクが後ろに引くと天瑠が前に出て、そのまましゃがんだ。


「瑠璃お姉さま……天瑠はお姉さまの所で元気にしてます。……瑠璃お姉さまの言ってたとおり、お姉さまは本当に天瑠たちをたいせつにしてくれます。璃音も元気にしてます。失敗もするけど、すごくがんばってますよ? 璃音は天瑠の……宝物です」


「…………っ」


 その言葉に、璃音はポロリポロリと涙を零していた。……色々な思いがあるんだと思う。


「瑠璃お姉さま……ずっと……見守っていてください。きっと、天瑠も璃音も立派になります……っ」


 そして、そう言い終わると天瑠は後ろに下がり、最後に璃音がお墓の前にしゃがんだ。


「……瑠璃お姉様……璃音は……失敗ばかりしてます。その度にお姉様と天瑠に助けられて……いきてるのがふしぎです」


「…………」


 否定は……出来ない。璃音はこの1年で3度死にかけた。その度に運良くボクか天瑠がフォローに入れる状況だから良かったが……普通の人ならまず死んでいる。

 けど……決して頼りないという訳ではない。璃音は失敗こそあれど、これまでに殺した数は天瑠と同じか少し多い。


「瑠璃お姉様にこんな姿みられたら……きっと……っ」


 握り拳を握った璃音の頬を涙が伝い瑠璃が眠る土の上に落ちる。……こうやって璃音は弱音を見せる時がある。

 …………いや、見せない方がおかしいのかもしれない。璃音が成長する同じ分だけ天瑠も成長するから、なかなか横に並ぶことが出来ないその辛さは、ボクには分からない。

 けど……璃音はそんな事をいいつつ、次は、次はと確実に成長する。




 ─────そうだろ、璃音?




「ぐすっ……それでも、璃音は……天瑠と並んでお姉様と一緒に歩きたいです。だから……もっとがんばります。……見守っていてください、瑠璃お姉様」


 涙を拭った璃音は覚悟を持った瞳で瑠璃のお墓をもう一度見つめると、そのまま後ろにさがった。

 やっぱり、璃音はそんな子だと、ボクは心なしか嬉しくなった。


 ────────────────────


「……天瑠、璃音。ちょっといいか?」


「……? はい」

「……? どうしました?」


 この日は……瑠璃が死んだ日だが、同時に……ボクと2人が出会って丁度1年になる日だった。


「天瑠と璃音に……渡したいものがある」


「っ!」

「!!」


 口に出した途端に、天瑠も璃音も目をキラキラさせながらボクを見ていた。……なんかこんなに期待されると少し気が引けるというか……ううん、取り敢えず渡そう。


「まず、天瑠。……これを」


「っ! これは……同じ……」


 ボクがあげたのは天瑠が髪ゴムとして付けているものとほぼ同じやつだ。


「……天瑠にあげると喜びそうなのは何か考えたんだ。聞き忘れてたけど……その髪ゴム……瑠璃から貰ったんだよな?」


「……これは、瑠璃お姉さまが最後までどっちにあげるか迷って天瑠にくれたものです。姉として、璃音を守ってあげてねって……」


 天瑠はそう言いながら髪ゴムを外してボクに見せてくれた。半年一緒にいたんだから間違えるわけが無い。瑠璃がいつも付けていた暗い赤色の丈夫なゴムだ。


「うん、瑠璃ならそうするって思った。これをあげるから、ではないけど……ボクからもお願い。もし、ボクがいなくなっても、璃音と一緒に生きるんだよ?」


「……お姉さま…………まるでどっか遠くに行っちゃうみたいなことを言わないでくださいよ……っ」


「……ボクだって、いつまでも天瑠と璃音の側に入れるわけじゃない。……いつ死ぬか分からないんだから……さ」


 ……これはボクが少し怖いと思ってる事だ。

 天瑠も璃音も……ボクにベタベタでここ最近で離れた事なんて全くない。……だからこそ、もし……ボクがいなくなった時、2人は生きていけるのかって……心配だった。


 ………でも、本当に死ぬみたいに聞こえたみたいで、天瑠も璃音も瞼にまた涙を溢れさせようとしていた。


「…………受け取ってくれるか?」


「……すぐにどこかに行ったりしませんか?」


「ボクから離れるつもりはないよ」


「死んだりしませんか?」


「ボクには……やりたいことがある。それまでは絶対に死ねない───いや、死なないよ」


「……分かりました。やくそく……ですからね?」


 天瑠はそう言うと、ボクの手のひらにあったゴムを受け取ってくれた。……内心、ほっとしたのは事実だった。


 ……それにしても、天瑠が髪ゴムを取ると、どっちが天瑠でどっちが璃音か見分けがつかないな。本当に双子なんだなって、風呂上がりの姿を見るといつも思う。


 そんな事を考えながら、次は璃音かと思っていると、天瑠が服をつついてきた。見てみると、まだ解いた髪の毛を結ばずにいた。


「……えっと、少し待っててくれますか?」


「ん? 別にいいけど」


 突然、天瑠がそう言い出したから、なんだろうと思いつつ見ていると、天瑠はいつもの一つ結びをやめて、2つのゴムを使い……左右で髪を止めたのだ。

 少しびっくりしてると、天瑠も恥ずかしいのかボクから目をそらしていた。


「瑠璃お姉さまの思いと、お姉さまの思い……天瑠にはどっちかえらぶなんて、いやです。……変ですか?」


「…………ううん、そんな事はないし、すごく似合ってると思うよ、天瑠」


「ほんとですか!?」


 途端にぱあっと表情が明るくなる天瑠。髪型が不安だったのかなと、頭をぽんっと手を置いてあげると気持ちよさそうに目を閉じていた。


 ────天瑠って時々、こうやってすごく甘えたがるな。……いつも我慢してるのか?


 ……と、それからボクは2人をそこに待たせると、部屋に隠していたものを持って戻った。


「さて、璃音。……少しじっとしててな?」


「はい……?」


 不思議そうにしている璃音に、ボクは暗めの赤の長い布を璃音の首に巻いてあげた。最初はびっくりしていたが、首元の暖かさに気持ちよさそうに、巻いた布に顔を深く埋めた。


「すごい……あったかい…………」


「璃音って、少し首元冷やすの嫌がるだろ? だから……マフラーを……あげることにしたんだ。……ボクが作ったやつを」


「っ、お姉様が!?」

「お姉さまが!?」


 璃音どころか天瑠までびっくりしていた。

 ……2人がびっくりするもの無理もないと思う。

 2人が確実に寝てからその裏で少しずつ作ってたんだから、ばれるはずがない。


「うん、璃音は少し危なっかしい時があるからな。そんな事がなくなるようにってお守りみたいな意味もある。……どうだ?」


「…………はいっ、大切にします……っ!」


 璃音は目を潤せてマフラーに顔を埋めていた。ボクも2週間頑張ったのが報われた気持ちがした。

 すると……まぁ、察しはついていたが天瑠が頬を膨らませてボクを睨んでいた。


「あ〜ま〜る〜?」


「むぅ……天瑠も欲しかったです」


「璃音はこれが初めて貰ったものなんだから、少しは分かるだろ? ……うーん、じゃあ……この前、敵から奪った消音器あげるから……それでもだめか?」


 1つしかなくて、取り敢えずボクが持っていたが、この機会だし、天瑠にあげようと思った。

 決して機嫌取りではない。決して、だ。


「うぅ、2つも貰ったら……文句なんて言えないですよ……璃音……ぅらゃましぃなぁ……」


「ん? 璃音がどうかしたのか?」


「なっ、なんでもないですよっ!! ありがとうございますっ!」


 最後何を言ったか分からなくて聞いたら……また天瑠がツインテールを揺らしながらそっぽを向いてしまった。

 ……なにか悪いことしたかな?

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