あれから1ヶ月────
それから……1ヶ月ほどすると、2人のことがそれなりに分かってきた。
まず……天瑠。双子の姉で、いつもは割と強気。戦闘でもそれが色濃く出ていて、投げナイフと瑠璃の形見の拳銃……H&K USP9を使っている。
そして、天瑠の飛び道具のセンスは凄まじいもので、どんな体勢からでも投げたナイフが急所を外すことはあまりない。
そして、璃音。双子の妹で、ちょっと弱気。いつもは天瑠の後ろにいるけど、戦闘になると頼りなさが嘘みたいに消える。
璃音にも何でも好きな武器を取っていいと言ったら、ショットガン───M1912を取り出したから目を丸くした。だが、使えない武器でやるわけにもいかないと、最初だけ使い方は教えた。
初めの何回かは反動で吹き飛ばされて心配したけど、それも杞憂だった。何日か経つと反動をうまく流せるようになり、精度も申し分なかった。
璃音にも瑠璃の形見の銃を持たせてあげた。
……ほんと、何が役に立つか分からないな。好きでもないのに、ボクはこの地位に立った。それがこの2人を守るのにはとてつもなく役立つ。……瑠璃、だからお前はボクに託したのか…………。
もちろん、身体面もしっかりと鍛えた。瑠璃から託された日、2人の身体は限界に近くて何日かはしっかりと療養させてから、体の事を考えてその限界で練習させた。
そして───2人の接し方もだいぶ定着してきた。
「2人とも、まだ行けるか?」
「はぁ、はぁ…………っ」
「はぁ、はぁ……っ」
この日もボクは2人の体力作りをしていた。だいぶ辛そうだが……やめると言わない限りはやる事にしている。
「まだ……うっ、」
「璃音っ!」
璃音が先に力尽きたように倒れてしまった。天瑠も心配になって急いで側によって手を出すが……璃音はそれを突っぱねた。
「……まだ……やれ、ます」
「璃音……ほんとうに?」
「天瑠もがんばってるのに……まだ……っ」
璃音は立ち上がろうとするが力が入らないようで、みるみる内に涙が溢れそうになっている。
……悔しいのは分かる。だけど……
「体を壊せば、その時こそ邪魔になるからな? 璃音は少し休んで。ボクと天瑠はもうちょっとだけ走るから」
「……はい」
……辛いのも分かる。自分だけ置いていかれるのは……すごく辛い。だからこそ…………
「いい、璃音? 体を壊した状態で殺し合いをすれば、まず死ぬからな? ……そんなこと、瑠璃が望むと思うか?」
「っ! ……瑠璃お姉様は……っ、そんなこと……」
首を必死に横に振る璃音。その頬は既に涙でぺっとり濡れていた。
「なら、今は体をしっかり休ませろ、いいな?」
「……分かりました」
「うん、いい子だ」
ボクは少ししゃがむと、璃音をしっかりと抱きしめてあげた。……ボクの知ってる心の落ち着かせ方はこれくらいしか知らない。前は……ボクをこうやってパパとママがやってくれたんだ。
「……お姉さま」
それにしても……璃音も天瑠も本当に心がしっかりしてる。……ボクが同じ歳の時は……こんなしっかりしてなかったな……。
「お姉さまっ!」
「っ、どうした?」
気づくと天瑠が頬を膨らませていた。
……全く心当たりが……あっ、
「天瑠もやって欲しいのか?」
「ちっ、違いますっ! 早く行きましょうよっ」
「うん……そうだな。……璃音も、もう大丈夫か?」
「はいっ」
「むうぅぅ〜」
そろそろ動かないと体が冷える頃だからと璃音にしばらくゆっくり歩くように言って離れたが、さらに天瑠は顔を真っ赤にした。
……あれ? ……まぁ、いいか。
───────────────────
今日の練習ノルマを終えてクタクタになった2人の肩を担ぎながら部屋に戻ると、そのまま2人を寝かせた。
「さて、ご飯は作るから、その間は寝てな?」
「はぃぃ……」
「むにゃ……」
最近はずっとこの調子だ。限界まで練習してくたくたで動けない2人を肩に担いで帰ってくる。……まだ、ボクがここに来たばかりの歳だからな……その時よりよっぽど苦しい練習をしてると思う。
……さて、作りますか。
ボクは部屋のコンロがある所に行くと、いつも通りお粥を作り始めた。
……瑠璃から2人を託された日から、ボクは料理を作らなきゃいけなかった。……最初はお粥を作ったけど、ふにゃふにゃすぎて食べられたもんじゃなかった。けど、なんとか食べるものをあげないと、って焦りでそのままあげてしまった。
2人は……泣きながら美味しいと言って食べてくれた。あんな物を……だ。……嬉しかったけど、なんだか……まずいものしか食べさせる事が出来ないのが悔しくなった。殺すことしか……この手を使った事がなかったボクは……この日から、料理を作れるようになろうと決意した。
(……始めて1ヶ月経つから……そろそろ2人の体も元気になってきたよな……)
お粥以外のものも作ってあげたいし…………。
「っと、そろそろ出来たかな」
箸でつつくと、とろっとしてきたから火を止めると取っ手を掴んで低い机の上まで運ぶと、もう感づいていたのか2人は目をキラキラさせて座っていた。
「お姉さま、いいにおいがします……っ!」
「お姉様〜、おなかすきました……」
「ん、じゃあ皿に取って好きなだけ食べてな?」
「は〜い!」
「は〜い!」
双子らしいように元気に返事をすると、2人は急いで木で出来たお椀にお粥を入れた。
今日は卵と鰹節、ネギを使ったお粥にした。1ヶ月もお粥を作ってるんだから、それなりには上手くなったはず。
そして、3人が掬い終わると、先にボクが食べる。2人はそれに合わせて食べ始めた。なぜなのか分からないけど、2人の習慣なんだとか。
(もぐもぐ……うん、美味いな)
卵の濃厚な甘さとべっこう飴のように輝く鰹節から絶えず滲みだす旨みが、お粥の米と卵の甘さをすごく引き立てている。それに、ネギもいい感じに効いている。
「はふっ……はふ……おいひい……っ」
「んん〜、あついぃ……おいひい……」
2人はいつもボクの作ったものを美味しそうに食べてくれる。……うん、嬉しい……かな。
「2人ともしっかり食べるようにな?」
「はいっ!」
「はい!」
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「まぁ、そんな感じで、天瑠と璃音のために料理をするようになって……」
「だから、天音ちゃんはあんなに料理が上手だったんだね〜」
「そう言えば……由莉ちゃん、そんなこと言ってたな。……ごめん、でもやっぱり思い出せない」
「……ううん、気にしないで? ……天瑠ちゃんに、璃音ちゃん……か〜。早く会ってみたいな〜」
由莉は天音の話を聞けば聞くほど、天瑠と璃音に自分も会ってみたいと思うようになっていた。
そんな由莉の言葉を天音は少しだけ口を綻ばせながら、次のことを語ることにした。
「……そうだな。……今頃なにやってるのかな……簡単には死なないはずだけど…………っと、それじゃあ……今度は1年後の話をするかな。……瑠璃を殺した日から……ちょうど1年経った時のことを」
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