?と?と?と?と?と?
由莉と天音の様子を……音湖たちはずっと見ていた。
───由莉ちゃん…………
音湖だってここまでえりかの様子が変わると思ってなかった。ましてや、マスターに関係のある人なんて世界はどれだけ小さいんだと思わざるを得ない。
そして、阿久津とマスターはその事実を受け入れきれずにいた。
「6年探して手がかりが見つからなかった……2人の娘さんが……それに…………」
「…………」
『あの』事実を知っている───それに2人は動揺を隠しきれなかった。それなら……天音に怨まれても仕方ない、そうも思っていた。
……その様子に音湖はブチ切れた。情けなくて仕方なかった。何があったのか分からないが───
「それでも……2人は男なのかにゃ!? 由莉ちゃんが……必死に戦ってるのに、その姿はなんにゃ!? 今なら…………うちでも2人を殺せるにゃんよ!?」
「……ねこに何が分かるんですか」
殺気めいた阿久津の剣幕に音湖はたじろいでしまう。久しぶりに味わう本心からの怒りだったのだ。
「にゃっ……」
「マスターが……6年間ずっと探し続けた……あの2人の娘さんが……こんな形で会うなんて……どんな気持ちか分かるんですか!?」
6年───阿久津は知っていた。毎年、必ず2人の墓に行って供養をしていた事を。その度に膝を折って2人に詫びていることもだ。
だからこそ、軽率な音湖の発言に怒りを感じざるを得なかった。
音湖は何があったのか本当に知らない。阿久津とマスターがこんなにも動揺するのならばよっぽどの事だろうと思っている。
でも……だからこそ……かわいそうなのだ。
「その子を今誰が止めてるにゃ!? 他でもない由莉ちゃんだにゃ! えりかちゃ──天音ちゃんに忘れられて苦しくて泣きたいのを堪えて、マスターのために、友達のために戦ってるんだにゃ。……2人にはあの姿も見えなくなったのかにゃ!?」
「……っ、」
「…………」
激昴する音湖と、黙っている2人の目の前には今も殺意の塊を撒き散らす天音と助けたくて何とかしようとしている由莉の姿が確かにあった。
阿久津もマスターも辛い。だが……この場で1番苦しくて、泣きたいのは由莉だろう。
5ヶ月、その間ずっと一緒にいて、これからもずっとと誓いあって努力して────それなのに、こうなってしまった。辛くないわけが無い。
「由莉さん……」
「由莉…………」
─────────────────
と、由莉が天音を押さえつけたのを見て音湖たちはほんの少し安心していた。
───あの状態なら、もう由莉さんが負けることはない……さすがに強くなりましたね…………
阿久津は本当の戦闘でも恐怖しない由莉の姿に成長を感じていた。それくらいの余裕がある状況と判断してのことだった。
だが、音湖とマスターは油断しきれない状況にあると感じていた。
ここまま───天音が、はいわかりました、なんて……言うのだろうか?
───由莉、油断はするなよ……
───………まずいにゃ。由莉ちゃん……安心しきってる。それに、あの子……さっきから一言も話していないにゃ。どうし……………………まさか!?
「待っ─────」
由莉に伝えよう、そう思った時には天音の口から吐き出された血液と唾液の混合物が由莉の目に直撃していた。
安心していた阿久津も含め、3人が総毛立った。間違いなく…………状況が一変した。
その天音の行動に……特に音湖は驚きを隠せなかった。なんせ…………、
───それは………うちも使ったことがあるにゃ。なんでそれを知ってるにゃ!? それに……このままじゃ…………
由莉ちゃんは……………殺される。
予想は現実となり、天音が由莉を押し倒した。そのまま何度も腹を蹴られ苦しむ由莉を3人とも助けたいと思った。だが────
音湖も阿久津も以前に由莉からある事をお願いされていたのだ。
───────────────────
「阿久津さん、音湖さん……お願いがあります」
およそ、1ヶ月前だった。由莉はえりかがいない所に阿久津と音湖を呼ぶと、あるお願いをしていたのだ。
「もし、私がえりかちゃんと戦わなくちゃ行けない時は…………何もしないでほしいです。私が……殺されるまでは」
「っ!?」
「正気かにゃ、由莉ちゃん?」
助けなんていらない、そう取らえる事も出来る発言に音湖も阿久津も首を傾げたが、由莉の真っ直ぐな瞳には覚悟を感じられた。
「お願いします、阿久津さん、音湖さん……」
「…………由莉さんは本当にしょうがありませんね」
「分かったにゃ。うちは、もしその状況になったら黙って見てるにゃ。ほんとに……どうしようもない弟子だにゃあ」
「わがままを言ってごめんなさい…………でも、私がやらないとダメなんです………。それに大好きな友達1人守れないくらいなら死んだ方がよっぽどマシです………っ」
頭を下げる由莉の熱意に阿久津も音湖も肩をすくめずにはいられなかった。だが……由莉の想いも少しは分かる気がした。
───自分で助けたんだから、自分で解決してあげたい
一見はなんでも1人でやろうとする由莉の悪い癖にも思える。だが、由莉はこれまでにえりかを含め皆んなに協力して貰っていた。だから強くなった。
ひとえに……ただ友達を助けるために。
そんな由莉が師匠である2人に自分を信じて欲しいと言っているのだ。否定すれば………由莉のやってきたことや実力すら否定することになってしまう。2人もそれはしたくないし、ここまで強くなった由莉ならば大丈夫だと、信じてそのお願いを聞いたのだった、
────────────────
「もう、見ていられない……っ」
「あっくん、待つにゃ! ……由莉ちゃんを信じるにゃ」
阿久津は何度も何度も、痛めつけるように蹴られる由莉の顔を見かねて飛び出そうとするも音湖に止められる。信じろとは言うが、明らかにまずい状況だ。阿久津だってなりふり構っていられない。
「しかし………っ、あれ以上は本当に……っ!」
だが、そんな阿久津を音湖は思いっきり頬をぶった。殺意を練り混ぜた視線を音湖に突きつける阿久津だったが、音湖だって本気だった。
「今止めてどうするにゃ、どうなったとしても望んだ事なんだったら顛末は見届けるべきじゃないのかにゃ!? うちらは……由莉ちゃんの師匠だにゃ!!! 弟子を信じないで何が師匠だにゃ!!」
「………っ」
音湖の瞳は既に涙が包んでいて煌めいていた。
その言葉は阿久津にも……自分にも……そして由莉にも届けるかのように思いをぶつけていた。
そんな言葉に阿久津は言葉が返せなかった。
それに……音湖は由莉が死ぬなんて万に1つもないと今になって思い出したのだ。
────由莉ちゃんは……『あの』由莉ちゃんが……黙ってるはずがないにゃ
───────────────────
「とっとと……くたばれよ!!」
「ぃ……や…………っ!」
トドメと言わんばかりに突きつけられたナイフを由莉は辛うじて天音の手首を掴むことで何とか防いでいた。だが……天音は全体重を乗せてきていて…………ナイフの切っ先と由莉の首の間にはもう数センチも残されていない。
「ボクの………っ、ボクの邪魔をこれ以上……するなぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!!!!」
さらに天音は力を強める。
もう死がすぐそこまで迫っている。
あと、1センチもない。
死が近い。
目の前に、死がある。
「うぅぅ………っ!!」
───いやだ……死ぬなんていやだ…………っ、まだ……まだ助けてあげられてない……っ、えりかちゃんと約束したのに……っ、それなのにそれなのに……………
まだ、だ………まだ!!! ここで死んではだめなんだ!!!
まだ…………死ねないよ!!!!!!〈まだ死なせないよ〉
その瞬間─────由莉の意識は暗転した。
────────────────────
「とっとと……早く死ねよ……っ!」
────殺せる、そんな感情が天音を支配していた。
早く殺して、あいつを殺そうと、もう天音は次の事まで考えつつあった。
だが、ナイフが由莉の皮膚をほんの少し切ってから───それ以上進むことはなかった。
〈────────〉
「………は?」
───動かねぇ……っ。あと少しだって所で……つくづくうざってぇな!!
天音の怒りは留まることをしらず、もう限界まで力を入れよう、そう思った…………その時
〈───まだ、やらせないよ〉
由莉(?)は思いっきり払うようにして天音の腕を馬鹿力でどかすと前傾姿勢の天音はバランスを崩す。
さらに、左手の手の甲で払うようにして天音の頬をぶち抜く。日頃から鍛えている同然の由莉の本気のビンタは……それだけで意識が持っていかれそうになる。
その隙を突いてその左手で掌底で天音の鳩尾を打ち抜き、起き上がるとその反動で転がった天音の背中にかかと落としを振り落とした。
「がぁっ!? てめぇ……っ、誰だよ!!」
天音も感じていた。
さっきとは……気配も、強さも……桁違いになった───まるで、別人が乗り移ったみたいだと。
由莉(?)はそれを聞くと不思議そうに首を傾げると…………ゆっくりと口を開いた。
〈何言ってるの? 私は大羽由莉だよ? ただの普通の女の子。あなたと同じ、ね?〉
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