¿再会と再開?
───早く……天音ちゃんを……助けな、きゃ………私……約束したんだ……だから……だから!
………飛び起きた由莉が見たのは真っ白な空間だった。見た事がある……いや、ここに来るのは半年ぶりだ。
「あれ……? なんで私、ここに……」
〈やっほ〜半年ぶりだね、私〉
「っ!? その声は……!」
振り返ると、手を後ろで組んでいる……姿も声も全く同じ由莉がいた。若干、ぎこちない笑みを浮かべてそこに立っていた。
〈本当は……会うのはお母さんを殺す時を最後にしようと思ってたんだけどね〉
「私……ううん、今はそれどころじゃない! 天音ちゃんを……助けなきゃ…………」
久しぶりに会えたことに嬉しみを感じつつも、そんな場合じゃないと拳を握りしめながらもう1人の由莉と向き合っていた。
そんな由莉にもう1人の由莉は近づくとゆっくりと頭を撫でてあげた。
「………ねぇ、少し私にやらせて?」
「え……? それって……どういう…………」
由莉は目を丸くしながらも、もう1人の由莉の言ってる事の意味が分からずにいた。
そして……告げられる残酷な事実。
「今のあなたには……天音ちゃんは越えられない」
「っ!? なんで……何でそんなことが言えるの!? 私……まだ!」
出来る!と言おうとした由莉を否定するかのようにもう1人の由莉はゆっくり首を横に振った。
「……あなたのいい所を天音ちゃんは狙ったんだよ。あなたの本当に優しい気持ちを……逆手に取られた」
「…………そういうあなたも私なんだから天音ちゃんに勝てないんじゃないの」
苛立ちの気持ちを込めて挑発する由莉だったが、もう1人の由莉はその質問にも首を横に振った。
〈あ……そっか…………あなたはまだ知らなかったんだった〉
「……どういう意味?」
〈じゃあ、見せてあげるね……あなたがこれまで生きる事が出来た理由を───〉
もう1人の由莉が由莉に手を翳すと頭痛と共に自分がまだ引きこもりだった頃の記憶が流れ込んできた──────
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
(痛い……痛いよぉ…………)
苦しんで血を吐く幼い日の由莉。
目の前には───鉄パイプを持った母親。
怖くて……足がすくんで動けない。
(いや……いやぁ………っ)
逃げたくても……逃げられない。
助けなんて……誰もいない。
(このまま……死んじゃうの?)
自分しか……いない。
頼れるのは自分だけだ。
(私は……っ、私は…………)
このまま死ねない……
絶対に生きて……それから……
(わ、たし……は……まだ……───)
鉄パイプが狂気に満ちた声とともに振り下ろされ……そして…………
意識は暗転する。
〈───まだ、やらせない……っ!〉
振り落ろされた鉄パイプを紙一重で避ける。
さらに飛びかかる母の攻撃を軒並み躱した。
ただの一撃さえも……貰うことはなかった。
狂ったように叫びながら荷物を持って再び出ていく母─────。
〈約束を……守るまでは死なせない……よ───〉
そのまま由莉はパタリと力が抜けたように倒れる。
それから由莉が目覚めたのはほんの10分後くらいだった。
「あ……れ…………? 私、生きてる……お母さんもいなくなってる…………」
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「……ずっと…………この4年間……?」
〈うん、今までは……あなたがショックを受けないように完全に意識を奪ってたけど……今回はあなたに見て欲しいかな〉
そう言うと、もう1人の由莉は目を閉じると由莉に背中を向けた。掴まってと言わんばかりに───
不安になりながらも由莉は肩に手を触れると……視界が一気に変わった。
───これは……天音ちゃん…………?
───────────────────
「んだよ……いちいち態度変えやがって!!! あぁーーもう!」
〈────訂正してほしいな〉
わけも分からずめちゃくちゃにきれている天音を由莉は冷静に見ていた。そして…………由莉がただ一つ、許せない事を練りあげた殺気とともに撃ち込んだ。
〈私にだって…………っ!〉
「なっ!?」
言葉だけじゃない。体も伴って由莉の速度は音湖をも軽々と越え瞬く間に天音の懐に入り込む。
瞬き一つで世界が変わるのだ。
そして───天音にだけ聞こえるような声で、
〈死んで欲しくない人がいた───!〉
「っ!」
ハッとした天音はナイフを由莉に振り下ろすも、見向きもしずに左手一本でそれを止める。
〈あなたに……何か言われるほど……っ!〉
ナイフが───由莉のナイフが初めて天音に向く。あの瞬間から……何もかも変わった由莉に天音は何とか避けようとするが、右手を掴まれて全く動けない。
「このぉぉぉぉぉーーーー!!!」
〈『この』傷は軽くない…………っ!〉
突き出されたナイフは───天音の服を破り、肩の皮と肉を少し切り裂いた。
顔を顰める天音を他所に、左手を離すのと同時に由莉は天音の腹を足で押し飛ばす。
そのまま2~3メートルほど錐揉みになりながら転がってやっと止まると、赤鮮色の雫が床に飛び跳ねていた。
──────────────────
「もうやめて! これ以上は……天音ちゃんが……っ」
〈…………そう、だね。ごめん、怒りすぎちゃった〉
由莉は聞いていても心が痛んだし……側で感じた殺気も誰も勝てないんじゃないかと思うくらいの凄まじさを感じていた。
だが……それでも、由莉は友達を斬ることは耐えられなかった。苦しそうにしている天音を見ているだけで心がおかしくなりそうになる。
「私は……友達を傷つけたくは……」
〈……本気でやらないと分かってもらえない事だってあるんだよ。犠牲を出さずにいつも結果が得られるとは……限らないんだよ……っ〉
そう話すもう1人の由莉の手は……震えていた。
自分が体験した事があるような気がして……なんだか忘れちゃいけないものがポッカリと抜けているような気がして由莉はならなかった。
「…………っ」
〈本当に優しい……そんなあなたが私も大好きだよ。でもね……綺麗事だけではなんともならない時だってあるんだよ……? それだけは……私はどうしても譲れない〉
もう1人の由莉は由莉に向き合うと両手で頬を包むようにしておでこを合わせた。
……なんだか懐かしいような気がした。心がほっこりして……それでいて……なんだか哀しくなってきて…………気づけば由莉はもう1人の由莉を抱きしめていた。
「あれ……? 私……何をして……」
〈……ゃ……り……おぼ……て……たんだ〉
「…………? 今……なんて…………?」
〈ううん、なんでもないよ。えっと……そろそろ離してほしいかな?〉
「え……あっ、ごめん…………」
もう1人の由莉が少し苦しそうにしているのに気づいた由莉は急いで手を離した。
〈……そろそろ来るよ。天音ちゃんを殺すことはないけど……傷つけるかもしれない。……そうなったら……ごめんね〉
「…………辛いのは私よりあなたじゃないの?」
由莉だって辛い。だが……傷つける方が……辛いに決まってる。
〈そりゃあ、私はあなただからね。……辛くないわけないよ……っ。でも、あなたを死なせたりはしないし、天音ちゃんだって助ける。これだけ欲張るんだから心の苦しみくらいどうってことないよっ!〉
……本当に強い。由莉はそう思わざるをえなかった。本当に強くて……かっこいいとさえ思った。
その裏には自分が知ればショック死するほどの辛い過去を内に秘め、それでも由莉のために今までこっそりと戦い続けたもう1人の由莉だからこその誰にも負けない心の強さがあったのだ。
───今……自分に出来ることは……私を信じる事だけなんだ…………今は……もうそれ以外……、
私には出来ない。
「……うん、───由莉ちゃん。天音ちゃんを……お願い」
〈っ………〉
自分で言ってても変な気分だった。自分で自分の名前を言うなんて……、でも……今目の前にいるもう1人の由莉を由莉は、もう『自分』だなんて言えなかった。
───今目の前にいるのは……『由莉』だよ。私じゃない。私と同じ道を歩いている……もう1人の私の大切な人なんだ……!
一方の由莉はきょとんとしたように目を丸くしていたが、その顔は瞬く間に花咲くような可愛らしい笑顔になった。
〈えへへ、なんかちょっとくすぐったいね。じゃあ、私もこれからは『由莉ちゃん』って呼ぶね。あっ、でも少し紛らわしいかな……あっ、そうだ〉
悩むように唇を人差し指でつついていたもう1人の由莉は何かを閃いたように由莉にあるお願いをした。
〈私の事は『ゆーちゃん』って呼んで? その方が……私、元気がでるよ!〉
「ゆー……ちゃん…………、分かった。『ゆーちゃん』……天音ちゃんをお願い……っ」
改めてお願いをされたもう1人の由莉───改め、『ゆーちゃん』はしっかりと頷き由莉の手を握った。
〈うんっ。任せて、『由莉ちゃん』!〉
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます