【先行公開】由莉とえりかのポッキーゲーム

11月11日


 由莉とえりかはいつも通り練習に励み、由莉は音湖と共に午後から特訓、えりかは阿久津と戦闘をして少し早めに切り上げると阿久津と料理を作りながら色んな知識を教えて貰っていた。


 そして、ご飯を食べて満足していた4人は部屋に帰るでもなく何となく椅子に座ったままでいた。


「ゆりちゃ〜ん、どうだった?」


「美味しかったよ〜! えりかちゃんと阿久津さんが作ってくれるご飯があると私も元気が出るよっ」


「うれし〜な〜っ。ゆりちゃんによろこんでもらえるならもっとおいしくなれるように……いつか、わたし1人で作ったごはんも食べてほしいなっ」


 椅子をくっつけあって肩をくっつけあって幸せそうにしている由莉とえりかを頬づきしながら音湖は見ていた。


 ───これが噂に聞く『百合』かにゃ。微笑ましいにゃ……。由莉ちゃんがえりかちゃんと百合……にゃははっ……あれ? なんか忘れてるような……


「にゃあああーーー!!!」


「ひゃあ!? どうしたんですか、音湖さん?」


「び、びっくりした……」


 バァン!と机をぶっ壊す勢いで叩いて立ち上がった由莉とえりかは驚きすぎて思わず両手の指と指を絡ませあって飛び上がった。由莉は心底驚いた表情で、えりかは変なものを見るようにジロっと見ていると厨房とダイニングを遮っている1.5mくらいの壁を飛び越えると冷蔵庫へ直行していった。


「だから、そこを跨ぐなと以前も言ったはずですが!」


「ついやっちゃったにゃーーー!! お願いだからこめかみをグリグリしないでにゃ〜〜!!」


 厨房の攻防の音を聞いて由莉もえりかも音湖の唐突な行動に目を点にして肩を竦めていた。そしてやってくると音湖は半泣きになりながら右手でコメカミをさすりながら箱を2つ由莉たちの前に放り投げた。


「いたいにゃ……本当に頭砕かれるかと思ったにゃぁぁ……」


「音湖さん、これは……ポッキー?」


「ポッキー……これは……なんですか?」


 パッケージに書かれている細い小麦色とチョコレート色の物体に興味津々だった由莉とえりかに説明しようとした音湖だったが、阿久津に遮られてしまう。


「それはだにゃ───」


「お菓子ですよ。……ねこ、まさかとは思いますが、」


「あーっくんは引っ込んでるにゃ〜。由莉ちゃんとえりかちゃんにはポッキーゲームをやってもらうにゃ!」


 あっくんを引き止めた音湖は2人に指さすと声高らかに宣言した。阿久津は呆れ果てながら、由莉とえりかは頭に疑問符を浮かべながら────


「ポッキーゲーム……ってなんですか?」


「よくぞ聞いてくれたにゃ、由莉ちゃん! さぁ、あっくん!2人にお手本を────」


「死にたいのであれば喜んでしますよ? もちろん、今日を命日にしますが?」

「お断りしますにゃすみませんでしたにゃ」


 こめかみに青筋をピクンっと浮かべた阿久津に殺気をぶちまけられた音湖は顔を真っ青にして汗を流しまくっていた。


「えっと……それでポッキーゲームってなんですか?」


 何かしらのゲーム……それも2人でやるゲームならとやる気の由莉と「ゆりちゃんがのぞむなら」とえりかも少し聞く気になっていた。


 もうそこまで行ったら止められないと頭を抱える阿久津と、久しぶりに阿久津の追っ手を掻い潜った音湖は得意げにそのゲームの内容を話していった。


「まず、その中にあるポッキーを1本由莉ちゃんが咥えるにゃ」


「こ、こうですか?」


 由莉は言われるがままに歯でポッキーの先を咥える。既に先端の生地が舌先にくっついて甘くて美味しいのがすぐに分かった。


「そして、えりかちゃんが反対の方を咥えるにゃ」


「……こう?」


 えりかは若干、音湖の言う通りにするのは嫌だったが由莉が目の前にいるから我慢して先の方の茶色に光っている部分を咥える。チョコレートがえりかのピンクの唇に当たって僅かに溶けて、えりかの口内の甘さを感じる味覚がつつかれる。


「そのまま、2人ともなくなるまで食べ進めるにゃ」


「…………まぁ、いいです……はぁ」


 最後まで言ってしまい、もうどうにでもなれと肩を竦める阿久津を他所に由莉もえりかもパクパクと食べ進めていく。サクサクした生地と甘いチョコレートが絡み合いいくらでも食べられそうだ。

 普段ならそれを味わって食べるのだが……由莉もえりかもそれどころじゃなかった。


(うわぁ……こんな近くにえりかちゃんがいる……)


(ゆ、ゆりちゃんの顔がちかいよぉー)


 既に由莉とえりかの顔はくっつきそうなくらい近づいている。ドキドキがもう止まらなくて心臓の血流が激しく身体を周回する。それでも、落とすわけにはいかないとえりかと由莉はますます顔を近づけながらカリカリと食べ進めていく。


 そして、残りポッキーが2cmを切るといよいよ由莉とえりかの鼻がピタッとくっついた。もうお互いに顔もピンクを超えて真っ赤だ。


(もう目の周りにえりかちゃんがいるよ……はうぅ、恥ずかしい……)


(ゆりちゃんが近くに……どきどきするよ〜)


 残り1cm───そこである問題に出くわした。

 どっちが最後のひとかじりするか。次で確実に……唇が当たる。どっちがやろう────と由莉が迷っているとえりかが躊躇いもなくパクっと由莉の唇にくっつけながら最後のひと齧りと由莉のファーストキスを奪い取った。


 その様子を音湖は顔を赤く染めながら少し離れてた所から眺めていた。


 ────やばいにゃ、やばいにゃ! うちまで照れてきたにゃ。うぅ、あんなの見たら……女の子でも男の子でも顔が真っ赤になるにゃ! あっくんは……


 ────…………


 チラッと阿久津を見てみると目をそらしていたが、それでも顔に照れていますと言わんばかりに少し赤くなっていた。


「にゃ〜あっくんだって照れて───」


「ねこが言い出したことですよ!」


 バシコーン!と阿久津は音湖の頭をぶったたいた。あまりの痛さにのたうち回ってしまう。


「いったぁぁぁああああーーー!!! 何するにゃ!?」


「今回はねこが悪いですよ!」


「そう言って、やっぱりあっくんも顔が赤くなって……って、やめるにゃ!? 包丁を持ち出そうとするにゃあーー!!!」


 音湖と阿久津が急いで部屋のドアをぶち破るように開けて出ていった。その間、由莉もえりかも唇を触れさせたまま離れようとしなかった。何故かは2人にも分からない。


(えりかちゃんの唇……ぷにっとしてて柔らかいな〜)


(ゆりちゃんのくちびる……甘い味がするよ〜)


 甘くて幸せな感触を2人とも堪能しまくっていた。

 だが、いつまでもする訳にもいかず少し惜しそうにしながらもゆっくりと離した。

 またやりたい───由莉がそうおもった時、えりかは何の躊躇いもなく袋の中のポッキーを口に咥えた。


「んっ……ゆりちゃん、やろ?」


「えりかちゃん…………うんっ!!」


 由莉は嬉しそうに遠慮なくえりかの咥えたポッキーの反対をパクっと咥えた。

 それから由莉とえりかはポッキーが全てなくなるまでずっとポッキーゲームをしていた。2箱全て食べ終わったのは───1時間後だった。

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