4人の食事と不信感

 次の話を出す前に、先行公開という形で、22時頃までにに11/11……ポッキーの日と言うことで特別な回の一部を出そうと思います。絶対に、見てくださいねっ!

(明日いっぱいまで公開した後に消して、数話後にそれを含めた回を書きます!)


 それでは飯テロ回をどうぞ!

 ───────────────────


「皿は用意するので、好きな分だけ取ってこっちにくださいね。ルーは入れますので」


 阿久津がそう言うと由莉とえりかは大きめの器にご飯を山盛りにして盛り付けた。その量を見て音湖はぽかんと口を開けていた。


「2人とも……そんなに食べるのかにゃ?」


「朝と夜しか食べてないですから、ね」


「…………だめ、ですか?」


「そんなことはないにゃ。そう言えば2人ともその歳だと育ち盛りだったかにゃ」


 肩をすくめる由莉と、睨むような視線を送るえりかを見て2人の大まかな年齢を思い出した音湖は誤魔化すようにはにかんだ。


 そうして、全員の用意が終わると席に全員が座った。1辺には由莉とえりかが、対辺には音湖と阿久津が座った。

 その時、えりかは前に音湖がいるのは嫌だと言わんばかりに、だけども由莉の気持ちを考えずに行動することに申し訳なさを顔に出しながら阿久津の前の椅子に座った。その様子を見た由莉と音湖はその気持ちを察してお互いに座る。


 そうして、全員が手を合わせて『いただきます』と口にする。それを合図に由莉とえりかは真っ先に銀色のスプーンを手に取り、真っ白なご飯にどろっとよく煮込まれたソースを絡ませ、器用にスプーンの上にじゃがいもを乗っけると口に運ぶ。辛味がピリッと頬をつつきつつも、頬をキュッとさせる旨さの波状攻撃が心を呑み込んだ。

 そこに、ホロホロに柔らかくなったじゃがいもが参入しほんのりとした甘みが味覚を甘噛みする。


「おいひぃ〜っ」

「はむっ……ん〜〜っ」


 天にも昇るような表情で幸せそうに食べている2人を見て阿久津も嬉しそうな表情で食べていた。その横で音湖は味わうようにしてカレーを頬張っていた。阿久津の作った料理を食べるなんて実に数年ぶりだ。感動しないわけがない。


 ───やばい、泣きそうにゃ……。まさか、もう一度食べられるとは思ってなかったにゃ……っ。あーもう、なんでこんなに美味しいんだにゃ……またこの数年で間違いなく美味しくなってるにゃ……


 瞳を若干潤ませながら音湖もそれをひた隠しするように、それでいて幸せな時間を堪能するようにカレーにがっついていた。いつもはその様子に気づく由莉だったが、食べることに夢中になりすぎてそれすらも分からなかったのだった。


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「ごちそうさまでした!」

「ごちそうさまでしたっ」


 1杯では飽き足らずおかわりをして、ようやく由莉のえりかのお腹は満たされた。その食欲を初めて見た音湖はかなり苦笑いしながら、ゆっくりと完食を遂げた。阿久津も最近1人で食べることが多かったが、大人数で食べるのも悪くないと密かに満足していた。


「はい、お粗末さまでした。食器はシンクの中に置いてくださいね?」


「は〜い!」

「はいっ」


 由莉とえりかは揃って立つと、食べた皿とコップをシンクに持っていった。その間も満足そうにしている由莉を見たえりかはとてつもなく幸せを感じ、今にも跳ねたくなるほどだった。

 それに気づいた由莉はいつも以上───いや、比べものにならないくらいテンションの高いえりかを不思議に思っていた。


「えりかちゃん、いい事でもあったの?」


「うんっ。だって……大好きなゆりちゃんのためにわたしもお手伝いして作ったごはんを食べてもらえたんだもんっ」


「そうなんだ〜えりかちゃんが……………………ええっ!?」


 少し照れながら話すえりかからようやく話された真実に由莉は幾許かの硬直の後に思わず飛び上がってしまった。まさか、えりかが作るなんて夢にも思ってなかったのだ。


「ほ、本当に……? 本当にえりかちゃんが……?」


「そうだよっ。それに、これからまいにち、あくつさんのおてつだいをしながら料理をおしえてもらうことになったんだよっ。ゆりちゃん、おどろいた?」


 今もいたずらっ子っぽく笑うえりかに由莉は感動しながら、えりかの手をぎゅっと握った。


「驚くに決まってるよ! うぅ、嬉しすぎてなんて言えばいいのか分からないよぉ……」


「えへへっ、ゆりちゃんによろこんでもらえたっ」


 この心を表す言葉が由莉には分からなくて、でもえりかに気持ちを伝えたい、そんな2つの意見の矛盾が由莉を尽く困らせた。

 そして、それを横で見ていた音湖は困るような質問にも平然と答えてみせた由莉がこんなにも困った顔をしているのにびっくりしていた。


 ───なるほどにゃ〜それも一種の困らせ方……なのかにゃ。由莉ちゃんは頭の回転がすごく早いから困らせるのが難しそうだけど、人間関係ではそうはならないのかにゃ?


 そして、そんな困り顔の由莉にえりかはさらに畳みかける。


「わたし、ゆりちゃんのためになにかしてあげたかった。でも、いつもじゃまになって迷惑かけて……だから、今度こそはゆりちゃんのやくにたってみせるよ。ゆりちゃんのためにわたし、毎日がんばるから楽しみにしててねっ」


「えりかちゃん……ぐすっ……ありがと……っ」


 ここまでして、えりかは自分の隣にいようとしてくれる、本当に嬉しさが重なりすぎて涙腺が壊されそうになるのを我慢しながら、由莉はえりかを抱きしめた。

 えりかにどうしても隠したかった涙もえりかには筒抜けでばれていて、えりかもそんな由莉の頬を伝う暖かい雫をそっと指で遮ると柔らかくて綺麗な髪の毛をそっと撫でてあげた。


 その様子は音湖に自分のやったことの重大さを再認識させられた。


 ───これはえりかちゃんがうちを嫌うのも分かるにゃ。もう……片方が死んだら、何があっても片方も自ら死ぬ。由莉ちゃんが死んだら、えりかちゃんも自殺する。えりかちゃんが死んだら、由莉ちゃんも自殺する。こんなの、本当に───


「ほんとうに……2人で1つみたいだにゃ」


「そう……ですね。お互いに自分の全てを託していますからね」


「はぁ……そりゃあ、えりかちゃんに嫌われても不思議じゃないにゃ……」


「………まぁ、ゆっくりと関係は直してください。あと、そろそろ皿を洗うので早く持っていってください」


「おっけーにゃ。すぐに食べ終えるにゃ」


 ─────────────────


 そうして、洗い物を手際よく終え、シンクの水滴1つ残さずに拭き取った阿久津は3人が何となく座り続けている所に戻った。それを待っていたと言わんばかりに由莉は今日は何をしたのかとえりかに尋ねた。


「えりかちゃん、そう言えば今日の練習はどうだった?」


「ん〜? あっ、そう言えば、やっとあくつさんにかてたよっ! ……50回やってだけどね」


「え……っ!? あの阿久津さん相手に? しかも50回……」


「うんっ、でも……ゆりちゃんも見たと思うけどいっぱいけがしちゃった」


 どおりでお風呂に入った時に、いつも以上にけがしてると思ったと、由莉は驚きと同時に身震いを隠せなかった。また……さらにえりかの強さが剥き出しになっているのだ。

 えりかはもう一度、ジャージを捲って脇腹を見ると薄い青あざがいくつも重なっていた。


「えりかちゃん……もしかして、負けるのが嫌になった?」


「………うん。もう負けたくないよ……。ゆりちゃんが、何回も何回も立ち上がるのを見てたら……かてないと思ってたあくつさんにだって負けたくなくなったよ……。もちろん、ゆりちゃんにも負けたくないよっ」


「それは私だって同じだよ! 今はまだ阿久津さんにも音湖さんにも……えりかちゃんにも届かないかもしれない。けど、絶対に勝つよ!」


「うん!」


 由莉の本質───その『たましい』を受け継ぐえりかはきっと、もっと強くなる。だったら、自分はそれよりももっと強くなろう、唯一無二の親友同士でありながら、最高のライバルでもある由莉とえりか。その瞳は全く同じように闘士で漲っていた。


 その隣で音湖は阿久津に近づくと、どうしても不思議な事をこっそりと聞いた。


(あっくん、手抜いてるのかにゃ?)


(……いえ、かなり全力でやって負けました。まだ、を使っての戦闘はしてませんけど、それでも……えりかさんは強いです)


(……マジで言ってるなら、あの子……相当やばいことしてるにゃ。若齢13歳ほどで勝つなんて……本当に何者にゃ)


 今も由莉と話しているえりかを横目に音湖は少しの危機感を覚えた。こういう時の音湖の勘はよく当たる。


(どうでしょうかね……間違いなくどこかの暗殺組織にいたのは間違いなさそうです。それにあれだけの力なら……名前くらい知ってるかもしれないんですけどね)


(……ともかく、由莉ちゃんが頑張るしかないにゃ。えりかちゃんが暴走した時、うちらで抑えるのもありだけど……由莉ちゃんはそれを拒んでるんだったにゃ)


(そうですよ。だから、由莉さんをよろしくお願いしますね? と、そろそろ勘づかれそうなんで普通に話しましょう)


 長い間の話はここでは由莉とえりかにバレると、音湖と阿久津はここら辺で終わりにすると、別の話題を振った。


「そう言えば、ねこ。今日は由莉さんと何をしていたんですか?」


「あっ! わたしもききたいです! ……ゆりちゃん、だめ?」


「え、ええっと……どうしますか?」


 どうすれば……と助けを音湖に送ると、音湖は練習内容は全部教えないけど1つだけなら、と許可を出した。


「ありがとうございます! えっとね……今日は……」


「…………(ごくり)」


「山の中を走り回ってたかな? 2時間くらい?」


「…………へ?」


「はい?」


 えりかは疎か、阿久津までも変な声を漏らした。それを聞いた音湖は「にゃ?」と不思議そうにしていた。


「それ……だけ?」


「そんな訳ないよ〜。だけど、教えられるのはこれかなって」


 ずっと山の中でもっとハードな練習をしていると思っていたえりかは急に音湖への不信感を一気に急増させた。


「ねこさん……ほんとうに、ゆりちゃん強くなるんですか? ……ちょっと不安になってきました」


「ねこ、今回はえりかさんの意見に同意ですよ?」


「……2人揃って酷くないかにゃ?」


「そうですよーっ」


 2グループになって不信感と安心を接触させていた。えりかと阿久津は尋常じゃないくらい激しく動いているのに、由莉と音湖の練習からはあまりそれが伝わってこないのだ。5時間半の中の2時間をそれに費やして大丈夫なのか───と。


「……ゆりちゃん、あとは何してたの?」


「石の上で3時間、ずっと座って瞑想をしてたよ? …………あっ」


「…………ねこ、ちょっと来なさい」


「にゃっ!?」


 無言で立ち上がった阿久津は音湖の首根っこを掴むとずるずると引きずって、部屋の外へと出ていった。それを由莉は若干狼狽して見ていたが、えりかは尚のこと不信感を募らせた。


「ゆりちゃん……さっきのいまでごめん。やっぱり何だか信じきれないよ………」


「………………」


 やってしまった、と由莉は自分の間違いを認めた。えりかが聞いてるからとつい口が滑ってしまったのだ。由莉は考えた。自分の失敗は自分で取り戻さなければならない、と。えりかの不信感を解消させる最善手は何か、と。───数秒、その間に由莉は何通りかの中から最善の方法を選んだ。






「じゃあさ、えりかちゃん……私を思いっきり殴ってみて?」

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