由莉vsえりか

「ま、また負けた……」


「はぁ……はぁ…………っ。つ、つかれたよ……」


 これで24連敗、えりかの必殺技とも言えるその動きを封じても尚、由莉はえりかから白星を奪えずにいた。


「えりかちゃん本当に強いよ……私が勝てるとしたら……持久戦? でも……それまで耐えるのが難しいからなぁ……」


「ゆりちゃんのあれもすごいと思うよ? わたしもあれをされたら止められる自信ないからせめるしかないんだよね……」


 由莉の強みは瞬間的な加速と、ゼロストップによる緩急、それに加えて半端ではない体力。

 対するえりかの強みはフェイントによる膝崩し―――アンクルブレイクと凄まじい戦闘センス、体に染み付いた戦闘経験。


 今の由莉には勝つ手段がかなり限られていたのだ。


「毎日……練習あるのみだね。えりかちゃん、また明日もいい?」


「うんっ、ゆりちゃんがのぞむなら何度でもっ。……もう1回やる?」


「っ!? えりかちゃん疲れてないの? だいぶ息も上がってる気がするからもう休もうかなって思ってたんだけど……?」


「……今のゆりちゃんのためにしてあげられることは……これくらいだもん。もしもの時……わたしをたおせるように」


 えりかは息を整えながらそう由莉に話した。えりかは確かに由莉の隣に立ちたくて……強くなりたい。けど、最悪の事態に陥った場合に由莉が止めてくれなければ……だめなのだ。

 由莉はえりかの瞳の奥底に決意と信頼を見ると、自分だって負けてられるものかと頬をぶっ叩いた。


「うんっ。じゃあ、もう1回お願い……えりかちゃん!」


「もちろんだよっ!」


 お互いに向き合った刹那、由莉とえりかは同時に動き出した。初めに後手に回った方がそのまま負ける、常にリードを奪おうと由莉とえりかはナイフを突き出す。


「考えてる事は……同じなんだ、ねっ!」


「だって……まけたくないもん!」


 負けず嫌いな所がだんだんと自分と似てきたのかもと由莉は若干笑いながら、一切の隙を見せないようにえりかと激しい交錯を繰り返す。


 ―――えりかちゃん……本当に強い。何度やっても勝ちきれない……それでも、諦めるなんて出来るわけがない!


 ―――ゆりちゃん本当にすごいよ……24回もまけちゃったら……もういやだってなるのに……。でも、それがゆりちゃんなんだ。わたしのあこがれで、わたしの知ってる強いゆりちゃんだ。ぜったいにあきらめずに……最後には勝っちゃうんだから。……でも、わたしだってまけたくない!


 ぶつかる度に思いまでぶつけ合うようにまで見えるその戦いは……熱かった。誰かが見ていれば魂が震える感触がするほどに、2人はその戦いにのめり込んでいった。


 刺突、拳、蹴りの応酬が続く。由莉は避けて受け流して、そこからのカウンターを狙うもえりかはそれが届く前に完璧に当て流してくる。


「くぅ……っ」


「ふぅ……ヒヤッとしたよ……」


 現在25戦目、流石にえりかの動きが鈍くなり由莉が若干有利になっても均衡はなかなか崩れない。


「……ねぇ、えりかちゃん。そろそろ決着つけない?」


「ゆりちゃんもそう思ってたんだ……うん、やろうっ!」


 これ以上、拮抗戦を続けても仕方ないと由莉とえりはお互いの合意を得た上で距離を取るとお互いに超低姿勢で構えをとった。


 これが……最後の一撃、由莉の全力とえりかの全力を思いっきりぶつけるつもりなのだ。


「すぅ〜〜ふぅ………………」

「すぅ〜〜ふぅ………………」


 息がぴったりとあった呼吸音がその僅か数メートルの空間を木霊するように響あい……お互いの呼吸が一瞬止まった瞬間―――両者同時に動いた。


 ―――これで決める! えりかちゃんのあれが来る前に……届けば勝てる!


 ―――ゆりちゃん、勝つよ。こんなところで……てかげんなんてしないんだから!!


 スピードは由莉が若干ながらも上、お互いの距離は一気に縮まっていく。そしてえりかのリーチ内に入った瞬間に物理法則をねじ曲げるようにして一気に速度を0へ落とそうと思った……その時、またも膝が崩壊されられた。抗いは叶わない。


 ―――また……負けるの? もし、これが本当にえりかちゃんと殺し合いをしている最中でも諦める? 助けられずに、ただ自分の命が失われる事を仕方ないって思える? そんなこと……出来るわけがない! まだ…………まだっ!


「負けて……たまるかぁぁぁーーー!!!」


「っ!?」


 由莉は倒れる中、思いっきり手をついて跳ね上がる。さっきので勝ったと思い込んでいたえりかは面食らってその場から動けなくなっている。

 これ以上にない好機に由莉はさらにそのナイフを至近距離で投擲する。まさかの動きに呆気に取られ完全にナイフを避けるのに集中立っていたえりかはひとときの間、由莉の姿を完全に見失ってしまう。


 ―――あれっ!? ゆりちゃんは……どこ?


 ―――やっと、一矢報いて終われるかな?


「っ! もしかして!」


「遅いよ?」


 えりかのすぐ後ろにしゃがんでいる事にようやく気づく頃には既に由莉はえりかの腕からナイフを奪い取っていて、すぐさま後ろへと引き返した。


「よしっ、えりかちゃん。これでもう勝ちでいい?」


「…………っ」


 ナイフと素手……1回触れられたら即敗北……そんな状況で……由莉に勝てるのだろうか?


 もう、いいんじゃないかという気持ちと、負けたくない気持ちに板挟みになったえりかはどうしようかと迷った。


「わたしは…………ま、」

「2人ともーそろそろご飯が出来ますので来てくださいねー」


 そうしてえりかが口を開いた瞬間に遥か上の方から阿久津の声が聞こえてきて話すタイミングを失ってしまった。それに……お腹も空いているから、阿久津のご飯を食べたいという思いが累乗グラフのように急上昇した。そして、それは由莉も同じようで少し苦笑いしながらえりにナイフを投げ渡した。


「えりかちゃん……とりあえずここまでにする?」


「うん……じゃあ、今回はわたしのまけだね。……おなかすいちゃったから早く行こっ?」


「そうだね。う〜。お腹空いたよ〜今日は何を作ってくれたのかな〜?」


 えりかは渋々ながら劣勢敗北を認めて、お互い使っていたナイフを壁に吊るすと疲れた事など忘れたかのように何百段とある階段を駆け上がっていった。

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