由莉の守る覚悟

『お知らせ』

緊急的に、改訂作業をします。話としては『由莉ともう1人の由莉編』をもう少し内容を厚くします。理由は……なんとなくです。あっ、改訂が完了した話には☆を付けていくので、すぐに分かると思います。それによって、明日の更新は少しお休みさせていただく予定です。すみません……。

と、それでは最新話をどうぞ!


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「……少し甘く見すぎてましたね。まさかえりかさんが左手でのナイフ使いまで出来るとは」


 阿久津は若干焦りを隠せなかった。油断していないつもりだったのだが、全然そんな事はなかったのだと少し反省もしなければならないと思っていた。


「……っ!」


 えりかは更に攻撃をしようと飛びかかる。由莉から言われたのは『殺すつもりでやれ』、つまるところ―――『勝って』と捉えていたえりかは何としてでもナイフでの一撃が欲しかった。


 だが、阿久津もそう簡単に負けるわけにはいかない。……いや、負けてはならないのだ。


「そう簡単に勝てると思わないでください……ね!」


「っ!? うぐっ……」


 えりかがほんの少し攻撃の手が緩んだタイミングを阿久津は絶妙に狙い、足払いと由莉にもした腕と首のロックを同時に行って床に引き倒した。もちろん、えりかが頭を打たないように手でしっかり守った。


「えりかさん、強いですね。今のであれば、ねことやりあっても耐えられるかもしれませんね」


「…………っ」


 ………負けた。えりかはそう思うしかなかった。もう身動き1つ取れやしない。どう動こうと何もさせないつもりだ。だったら……えりかは口にするしかなかった。


「まけ……まし、た…………」


「はい、お疲れさまでした。えりかさん強いですね。もしかしたら今の状態なら、ねことやっても少しなら耐えれそうですよ。……さて、私も少しやらなければ行けないことがあるので、あとは2人の自由行動をしていていいですよ。それでは」


 えりかは悔しさのあまりに抜け殻のように呆然とし尽くしていて、阿久津が手の締めを解いてその場から離れると由莉は急いでえりかの元へと駆けつけた。


「えりかちゃん……!」


 由莉は床にぐったりと転がっているえりかの前に座ると、自分の太ももで労いの意も込めて膝枕をしてあげた。すると、それに気がついたえりかはうっすらと栗色の瞳を開けてゆっくりと声を少し震わせた。


「ゆりちゃん……ごめんね、まけちゃった。かつって言ったのに……っ」


「ううん、えりかちゃんすごかった。阿久津さんが焦ったところなんて私も初めて見たよ。本当に、本当に頑張ってたよ」


 悔しさで悶えそうなえりかの心に、由莉の太陽のように暖かい言葉がじんわりと溶けていき、ほんの少し落ち着くことが出来た。


「そんなに……ほめられるならよかった……かな? でも……わたし、やっぱりかちたかった……」


「じゃあ、今度は勝てるように頑張ろ? ……その前に、私もえりかちゃんより強くならないとだめなんだけどね、あはは……」


「うんっ」


 こう励ましてはいるものの、由莉は内心冷や汗かきまくりだ。阿久津を焦らせた事なんて今まで1度すらなかった由莉は、その力量差が痛切に感じ取ってしまった。本当に…………本当に高い壁なんだと思った。 えりかを越えること、即ち莫大なビハインドを短期間で埋めることを。


 と、そんな事を思って暫く経った後、そろそろ由莉のひざがしびれを切らしそうで、若干苦しくなってきた。


「えりかちゃん? そろそろ……」


「……ん、分かったよ〜。ゆりちゃんのひざまくら気持ちいいな〜ずーっとねていたくなるよ」


 少々名残惜しそうにしながら退いたえりかを見て由莉もほんの少しだけ、それがどんなに気持ちいいものなのか気になってしまった。


「……人の膝枕……そんなに気持ちいいのかな……? …………うっ」


「……? ゆりちゃん、だいじょうぶ?」


「うん……少し目眩がしただけ。今は平気だよ」


 なぜか……考えようとするのを脳が否定したような気がした。触れられたくないように……『何か』を弾き出すように―――。


「なら……いいんだけど……。えっと、これからどうするの? あくつさん、ここからは自由にしていいって言って行っちゃったし……」


「う〜ん……あっ、じゃあ……もう一度、えりかちゃんと手合わせしたいな……いい?」


「ぇ………? う、うんっ、そうだね!」


 由莉の提案にえりかは少し驚きながらも了承する。だが……由莉と戦うのは言っても3回目、そして……2回目にあの事があったのもあって歯切れの悪い返事をしてしまった。


 まぁ、えりかの事をずっと見てきた由莉にはお見通しだったのだが。


「えりかちゃん、本気で殺すつもりでかかってきて。本気のえりかちゃんとやりたい」


「いいの……? わたし…………」


「今は……えりかちゃんに勝てるようにならないと、この先……もしもの事があった時に大変な事になっちゃう。だから……お願い」


 10歩ほど離れた由莉とえりかはお互いにナイフを構えながら、そんな話をしていた。えりかも由莉に頼まれればやるしかない。なのだが、また大事な人を傷つけるかもしれないと思って力が上手く入らない。だが、その揺れも次の由莉の言葉で一瞬の内に吹き飛ぶ事になる。


「もし、手加減したら……えりかちゃんの事を嫌いになるからね。だから……全力でやって!」


「っ!!」


 力強い言葉だった。由莉の覚悟の大きさがどれだけ大きいのかが、その二言だけで伝わってきた。同時にえりかはさっきまでうじうじしてたのが馬鹿らしくなった。こんなに自分のために本気で言ってくれる由莉に、中途半端な覚悟でやりあうなんて、友達としても……最悪だ。全力の思いには全力の思いを以て応える他にない。

 えりかは1回遥か上に広がるコンクリートの天井を見上げて深呼吸すると……一気に阿久津と戦っている時と同じ雰囲気を醸し出した。


「……うん、ゆりちゃんがそう言ってくれるんだもん。わたしも……それにこたえたい!」


(……すごい圧力。目の前に対峙するだけでえりかちゃんがどれだけ強いのか分かっちゃう。けど……それでも勝つ!)


「行くよ、えりかちゃん!」


 ___________________


 ―――5秒後


 えりかはナイフを由莉の首元に当てていた。


「……………………えりかちゃん、その技どう攻略すればいいの!?」


「え、えっと……きあい?」


「き、気合いかぁ……。えりかちゃんに勝つには……まず、これを攻略しないと勝てない………その技強すぎるよ……」


 またも、同じ技でやられてしまった。由莉も来ると分かっていても……反応が出来ない。膝の崩壊が止められないのだ。


「あの動作……フェイントだと分かってても反応しちゃうんだもん……出させないようにすれば……封じる事も出来るとは思うけど……うーん……ごめん、えりかちゃん! もう1回いい?」


「うんっ」


 そうして、えりかのその技をなんとか封じようと試みて……23戦。



 結果は……由莉の23戦0勝23敗…………

 勝率0%の完全敗北だった。

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