葛葉の日記 ②
今日はもう1〜2話出します
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「あれ……もう12時……」
夢中になりすぎてペンを取ってから2時間経っていた事に気づいた葛葉はびっくりした。本当なら11時頃に眠気が来るのに、一切来ないのだ。今日の内に思いの限りを全部書かないと、寝ようにも寝れなかった。
「さて、やりましょうか」
葛葉はもう一度気を入れるとペンをノートの上に踊らせた。
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私はその後、意を決して2人と一緒に祭りを回りたいとお願いをしました。
断られたらどうしようと少し怖かったですが、由莉ちゃんもえりかちゃんもすぐに快諾してくれました。
なんだか……嬉しくて、言葉に言い表せないくらいです。
由莉ちゃんは無傷でしたが、やっぱり、えりかちゃんは私を庇ったせいで服も汚れてしまったみたいで、音湖さんと一緒にどこかへ行ってしまいました。
取り敢えず、まずは渡辺さんの所へ行こうとした私は石の段差に盛大に転んでしまいました。
……今月だけで何回目でしょうか……足元には注意しているつもりなのですがね……。
慌てた様子で駆けつけた由莉ちゃんはすぐに私の顔を見てホッとしていました。
どうやら、私が顔から突っ込んだと思ったのでしょう。
……確かに今までに何回かやっていますね……。
膝を擦りむいてしまったみたいで、由莉ちゃんが阿久津さんに絆創膏と消毒液を貰ってくれたので自分でやろうと思っていましたが、由莉ちゃんがやってくれました。
その姿は……年下にはとても見えませんでした。もしかしたら同い年……いや、年上なのかも? なんて思ったりもしました。
それに……由莉ちゃんといるとなんだか心が暖かくなるんです。
もちろん、えりかちゃんといても楽しいのです。ですが……なんて言えばいいのでしょうか。
本当に初めて会ったような気が一切しないのです。
不思議ですよね、面識なんてないはずなのに……。
手当てをしてくれた由莉ちゃんに、助けてくれたお礼も含めて言うと、少し照れくさそうにしていました。
由莉ちゃんの笑顔は……女の子でも素直に可愛いって言わせてしまいそうなくらいキラキラと輝いていました。見ていた私まで嬉しくなってしまいました。
手当てが終わり、再び歩きだそうとした時、由莉ちゃんが手を繋ごうと言い出しました。
心配してくれているのだろうけど、そんなに気を使われたら申し訳ないと思いましたが、上目遣いで聞いてくる由莉ちゃんの顔を見て拒否は出来ませんでした。
……首を振る人なんているのでしょうか?
と、ようやく渡辺さんの元へ向かうとすごい形相で飛びついてきて由莉ちゃんもびっくりしてました。
普段は頼りになるんですけどね……何かが起こってからだと、渡辺さんは本当にオロオロしてしまうんですよね。
と、その流れで由莉ちゃんが3人で一緒に回る許可を取り付けてくれましたが……私より由莉ちゃんの方が安心できるのか渡辺さんは財布を由莉ちゃんに預けました。
うぅ……確かに財布を落としたことは……何百回とあるから仕方がないですよね……。
そうして夏祭りが初めての由莉ちゃんに色々と屋台を紹介しながら歩いていると、ベビーカステラに由莉ちゃんがすごく興味を示していたので買って食べる事にしました。
あのカスタードの生地の甘みとふんわりとした食感は私もすごく好きで、前に住んでた所の近くでやっていたお祭りでもよく食べていました……。
そんな感じで、買ったものをえりかちゃんの分も残すようにしながら2人で食べていたのですが、気づけば無くなっていました。
美味しかったから仕方ないですよね。
流石にこれ以上食べてお腹いっぱいになってしまったら、えりかちゃんが帰ってきた時に怒りそうだと言うことで、音湖さんとえりかちゃんが帰ってくるまで入り口の石段に座っている事にしました。
その日は雲が1つ無く、空には星空が煌めいていました。
周りには明かりがあまりないので本当に綺麗でした。
ふと、由莉ちゃんも星座の事を聞いてみると全然知らないみたいだったので、教えてあげることにしました。
星の事はすごく好きなので、話そうと思えば3時間は軽く話せそうですが……流石にそこまですると由莉ちゃんが混乱しそうなので、デネブ、アルタイル、ベガから成る夏の大三角を指さすと、由莉ちゃんにも見えたようで少しホッとしました。
誰かに何かを教えるなんて本当に久しぶりでしたのもありますが……とにかくよかったです。
涼しい風の中、ぼーっと由莉ちゃんと一緒に星空を眺めていると、ふとさっき考えていたことが頭を過ぎって、由莉ちゃんと初めて会った気がしないと言うことを話した所……由莉ちゃんも全く同じ事を考えていたようで、心の底からびっくりしました。
こんな偶然……いや、偶然なのでしょうか? ……考えても分かりそうにはないですけどね。
そんなこんなで話している内にえりかちゃんと音湖さんが帰ってきたようで、由莉ちゃんと一緒に迎えに行こうと走っていきました。
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「ここからなんだけど……やっぱりだらだら書きすぎかな……?」
手に疲れを感じ始めた葛葉はペンを置き、指を絡ませて背伸びをしていた。流石にこの文量を書くのは葛葉も初めてなのだ。
「まぁ……大丈夫だよね。よしっ頑張ろう!」
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帰ってきたえりかちゃんは、さっきと印象が少し変わっていました。
前が清らかなイメージがあったのに対して、その時は大人っぽかったです。
音湖さんも私たちのために本当に急いでくださったので、感謝に耐えませんでした。
という事で、えりかちゃんも合わさり3人になったと言うことでさっきの屋台でもう一つ買うと、余程お腹が空いていたのかえりかちゃんは本当に嬉しそうに食べていました。
しかし、その時の私はそれよりも、由莉ちゃんが次々に投げてはえりかちゃんが取って食べている光景が異常に見えました。
それだけでも、すごいを通り越しているのに、今度はマシュマロキャッチのように由莉ちゃんが自分でやると、えりかちゃんの口にも投げ込んでいて……私の中の常識が壊れていくような気がしました。
どれほど……お互いを信じあってるのか、気になった私は尋ねてみましたが……少し後悔してしまったかも知れません。
気づいてしまったのです。
……私では由莉ちゃんとえりかちゃんの横に立つことなんて出来はしないんだと。
言ってしまえば、少し悔しかったです。
自分には2人の横になんて立てない、そう言われたような気がして……。
だけど、そんな私を無理矢理にでも楽しませようと引っ張ってくれる由莉ちゃんが……本当に心強くて……自分ももう少ししっかりしなければいけないと思いました。
そうして楽しい時間が過ぎ、渡辺さんや阿久津さんが来ていて、時間だと言われたので……その時はお別れだと思い、なるべく悲しませないようにと少し言葉を交わしてすぐに別れました。
車の中に乗り込んだ時には……私は涙が止まりませんでした。
せっかく仲良くなれたのに……また会えなくなる……そう思ったら胸が締め付けられるような思いで泣き続けました。
渡辺さんも、またすぐに会えますよと行ってくれて、その時はそんな私を気遣ってくれての言葉だと思っていました。
そして渡辺がもう着いたと言うので、早くお風呂に入って部屋で今日の事をずっと繰り返し思い出そうとしてドアを開けると……そこは見たことも無い場所でした。
人もかなりの集まっていてポカンとしている私に、渡辺さんは帰る前に花火でも見ましょうと言ってくれました。
きっと渡辺さんが元気づけるために気を使ってくれたんだろうとその時は思いました。
花火は好きなので少しでもこの落ち込んだ気分を晴らせることを願って車を降りました。
すると、ほぼ同じタイミングで少し離れた所に見覚えの車が止まり、まさか……と思い少し寄ってみると……本当に由莉ちゃんとえりかちゃんが出てきて……驚きすぎて一瞬声が出ませんでした。
また会えた事への喜びより先に、どうしてここに?って思いが出たんだと思います。
2人も目の周りをほんのりと赤くしていて考えている事は一緒だったんだなって今はそう感じます。
と、会えた事にようやく実感が湧き、嬉しくてたまらなくなっていた私ですが、一方でえりかちゃんと由莉ちゃんは深刻そうな顔をしていて、どういう事かと話を聞いてみると、渡辺さんや阿久津さん達がここでまた会うことを知っていた上で、私達が泣いているのにそれも知らないふりをしてここまで来た、と言うのです。
少し深く考えすぎとは思いましたが、言われてみれば確かに事実です。
本当に気遣ってくれるなら言ってくれても良かったはずなのです。
そう考えていると、由莉ちゃんが何かに至ったようですごい様子でキレていました。
あんな由莉ちゃん初めて見たし、何よりも……今までの可愛さが嘘のようなくらい本当に怖かったです。
後から話を聞くと、由莉ちゃんは私とえりかちゃんを泣かすように阿久津さん達が仕向けたんだと思って怒りに身を任せてしまったと少ししょんぼりしていました。
本当に……由莉ちゃんは優しいのです。
由莉ちゃんがえりかちゃんを連れて阿久津さん達の所に向かうようで、私も渡辺さんに本当の事を教えてもらうために、取り敢えず嫌な予感がしたので渡辺さんを少し離れた林の入口まで連れていき話を聞くことにしました。
そこで渡辺さんは私の顔を見た途端に一気に顔から血が引いたように青くなっていきました。
私は疑問に思いながらも、はぐらかされないように出来るだけ強めにどうして、と聞くと……やっぱり、嫌な予感は当たったようで辺りに響くような声で謝られました。
もし、人が多いところで聞いていたら……と思うとかなり恥ずかしかったです。
とは言え、誰も見ていない様なので……渡辺さんが飛びついてきて垣根に飛び込んでいったのも見られていない、と思っていたら……割と最初の方から由莉ちゃんとえりかちゃんが見ていたようで顔から火が吹き出そうなくらい恥ずかしかったです。
と、まぁ、そんな事をしていると気がつけば花火大会が始まる時刻になる寸前だと言うことに気づき、まだ何も知らないようで困惑している由莉ちゃんとえりかちゃんを無理矢理にでも引き連れて会場へと向かいました。
始まると同時に花火大会と言ったらと言わんばかりに眩しい光が何度か煌めきました。
花みたいに咲いては散り、咲いては散り……本当に壮大で、儚くて……私はそれが好きです。
隣では由莉ちゃんとえりかちゃんが手を繋いで「大好きだよ」と言っていたので、もしかして百合な関係なのかな? なんて思いましたが、そんな甘い関係じゃない事をすぐに思い出すと、その言葉は真なる信頼を込めているように聞こえてきました。
……やっぱり、少し羨ましくもなります。
そうして3人でぼんやりと眺めていると『演目』と呼ばれる、序盤の花火とはスケールが違う種類の花火が次々に打ち上がっていきました。
この圧巻の光景と爆音が花火大会の良さだと私は思っています。
青い花火もここで見たのが初めてな気がします。一瞬だけ途中に青に光る花火なら見たことがありますが、青一色の花火なんて全然見た記憶がありませんでした。
楽しんでいましたが、ついに最後の演目のようで、金色の花火が次々に咲き、まるで満開……いや、大満開と言いましょうか。そんなくらいに咲き誇る桜を見ているような晴れ晴れとした気分になりました。
そんな花火も最後には跡形もなく消えてしまい、静けさと星空だけが残った時には皆んなも満足したようで帰り始めていました。
私たちもその凄まじさに心を奪われつつ帰ろうとしましたが、後ろの若い青年達の声が聞こえ、後ろ髪が引っ張られる気分になりました。
最後の光までが花火大会なのですから、それなしなのはちょっと変だと思いました。
すると、その青年の人たちの言葉通り、次が最後というアナウンスが響き、帰ろうとしていた人達の足が一気に戻り始めました。
私も初めての経験です。
余程すごい物が見れるのだろうと思い楽しみにしていると、湖の両端から同時に光の粒が空高くに舞い上がり……桃色と青色の花火が咲きました。
その後も次々と光途切れることなく上がり続ける様子は、演目の名の通りに切れることのない『絆』を表しているんだな、という思いで中央へと近づく2つの光を見ていて思いました。
由莉ちゃんとえりかちゃんはどう思っているのだろう、と見てみると……2人とも両目から涙の筋が流れていました。
私には……その理由が分かりませんでした。今も、こうして書いている間も考えていますが、一向に掴めそうにありません。
……話が脱線しそうですね。
そうして、青の光と桃の光が交わった瞬間に、他のどんな花火よりも高く打ち上がる一つの光が打ち上がり……左は青、右は桃の花が空いっぱいに咲き、それに呼応するように左右から何発も何発も……青と桃の光が一筋の軌跡となって交わるその様子は……まるで由莉ちゃんとえりかちゃんを表しているかのようでした。
……考えすぎでしょうね。
それを見た由莉ちゃんとえりかちゃんは2人で抱きついていました。
なんでそこまで……と聞きたくなりましたが……私にもあるように、2人にも他の人には言えない秘密があるんだと思います。
いずれ……この事を話せられるようになればいいんですけど……多分、それはないでしょうね……。
暫く由莉ちゃんとえりかちゃんをそのままにしていると、一頻り終わったのでしょう、私を置いてきぼりにした事を謝って来ましたが、私はそんな事は気にしてませんのに……。
一先ず、由莉ちゃん達から貰ったりんご飴を食べ満足した私たちはやって来た渡辺さん達の元へ向かいました。
それは本当のお別れが近づいてきた証でした。
渡辺さんにそろそろだと言われた私は、夏祭りの時と同じように由莉ちゃん達と向き合いました。
けど、今はさっきのような悲しみはありません……と言えば嘘になります。
今度いつ会えるかわからない2人に、その時まで私の事を覚えていて欲しいと思ったので私は自分の普段使っている髪留めを由莉ちゃんとえりかちゃんにあげると、2人ともすごく嬉しそうにしていて、私も同じ気持ちになりました。
すると、由莉ちゃんとえりかちゃんはお互いに持っていた桃色の水色の小物入れを私にくれました。
貰った瞬間……今まで由莉ちゃん達の前では我慢しようとしていた涙が溢れてきてしまいました。
だって……2人も泣いちゃうじゃないですか……。
そして、『また会いたい』という思いは由莉ちゃんもえりかちゃんも一緒でした。
今度あった時は……もっとお互いの事を話せたらいいなと思います。
自分の事も含めて……もっと…………。
そうして3人で手を合わせ約束をしました。
もう、寂しさなんてありませんでした。
由莉ちゃんとえりかちゃんの約束はきっと守られるって何となく分かるんです。
車のある方向まで出来るだけゆっくり歩いて2人といる時間を最後まで楽しんだ私は車に乗って、2人の姿が見えなくなるまで、いつまでもいつまでも手を振っていたのでした。
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「ふぅ……書き終わった……2時……ふふっ、時が過ぎるのは早いな〜。由莉ちゃんとえりかちゃんの事は何時間でも考えられそうだよ」
手の限界と眠気の限界が来た葛葉はフラフラになりながらベッドに倒れ込むと枕元に由莉とえりかから貰った小物入れを置いた。
「由莉ちゃん、えりかちゃん……今度はいつ会えるかな……来週……来月……来年? また、会えるのが楽しみ……で…………す―――――――」
とうとう疲れで眠ってしまった葛葉の表情は……それはもう穏やかで安らかな表情をしていたのだった。
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