由莉とえりかと葛葉の夏祭り②
それから由莉とえりかと葛葉は色んな所を回った。
まずはたこ焼き。偶然6個入りで売っていたので、2個ずつ分けることにしたのだが……
「はふっ、あついっ」
「え、えりかちゃん、それを一口は火傷しちゃうよ!」
「このたこ焼き普通のたこ焼きより大きい……あつっ」
外のカリッとした食感とは裏腹に中はとろっとした熱々の生地が3人の口内を一瞬の内にパニックに陥らせる。そして、その熱が収まりを見せ始めると、ようやく味を堪能する事が出来た。上にかかっている濃厚なソースの味わいやマヨネーズの甘酸っぱさ、かつお節がとろっとした中身の生地とたこの旨みを最大限にまで引き出す。
「おいひぃ〜」
「うん〜っ」
「幸せ〜」
3人の顔には笑顔があふれ、葛葉も暗い気持ちもすっかりと忘れてしまっていた。
「ねっ、次はあれやってみようよっ」
次に向かったのは、缶倒し。山状に積まれた缶6本をお手玉のようなもの6つでどれだけ倒せるかで景品が決まってくる一見簡単そうなものだ。
「わ、私……あまり投げるの得意じゃないから由莉ちゃんとえりかちゃんがやってる所見てるよ」
運動が割と苦手な葛葉は早急に辞退するとやむを得ず、由莉とえりかでやる事になった。
第1投目で由莉も、えりかも軽々と1段目、2段目の缶を軽々と吹っ飛ばし、残り一番下だけとなった。
―――あれ?これ全部倒すの簡単だったりして……
2人ともそんな事を思いつつやった結果――――
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「うぅぅ……」
「…………っ」
「ふ、2人ともあまり落ち込んだらだめだよ?」
葛葉に宥められながら由莉とえりかは悔しそうにうつむいていた。
理由は簡単だ。5発の弾を全部当てたのに3段目を1つも落とせなかったからだ
第2投目は当たりはしたがぐらついていただけで、その時は2人とも単純に力不足かと思いつつ、本気で第3投目を投げた。投げられた弾は凄まじい速度でアルミ缶の中央を捉えたが……『ゴトン』と音を立てて倒れるだけだった。
……そこで分かってしまったのだ。
攻略不可能、勝ち目の一切ない無理ゲーだと。力不足でもコントロールの悪さでもない。諦めなければ出来るとかそんな話じゃない。最後の段だけ……容器入りだった。アルミ缶の重さは約350g、お手玉の重さはせいぜい40g。それでアルミ缶を10センチ後ろへと落とせ、なんて無茶な話だった。
だが、由莉もえりかもそれを分かった上で何とか一矢報いようと抗ったが……無駄に終わってしまった。
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「あれはそんな風に作られてるんだと思うよ……たまにああやってずるい事をする大人だっているんだよ。……大人って本当に汚い」
2人の落ち込んでる姿を見て割とキレてるのか、嫌悪さ全開で吐き捨てるように発せられた葛葉の言葉に由莉とえりかは落ち込みながらも少しびっくりしていた。
「葛葉ちゃん……」
「くずはちゃん……?」
「あっ、ごめん……つい……」
葛葉はハッとして慌てて口を抑えるも既に後の祭りだった。だが、そこまで自分達のために怒ってくれる葛葉が2人には少し嬉しかった。
「ううん、少しびっくりしただけだよ?」
「葛葉ちゃんが怒ってるの初めて見たよ……」
「わ、私だって……怒る時は本当に怒るからね?」
はしたない姿を見せてしまい少し恥ずかしそうにしている葛葉だったが、そのおかげで由莉とえりかも少し落ち着きを取り戻せた。
「ありがと、葛葉ちゃん……でも、分かってても悔しいよ……」
「うん……やっぱり悔しい……」
負けず嫌いすぎる2人に葛葉は目を丸くしていたが……なぜか急に笑いが込み出してきた。
「ふふっ……」
まさか笑われると思ってなかった2人は頬が一気に赤くなった。
「えぇっ!? そこ笑っちゃうの!?」
「くずはちゃん、なんで……?」
「ううん……2人って本当にすごいなぁ、って。どんな事でも一生懸命やって、出来たら本当に喜んで、出来なかったら本当に悔しがる……少し羨ましいよ」
自分にはそんな事はあまり出来ないと言わんばかりの葛葉の発言に由莉はもうちょっと深く聞いてみた。
「葛葉ちゃんは……そんな経験なかったの?」
「うーん……少しはあるけど……あまり過去の事は言いたくないかな……」
「………そっか。じゃあ、ほかの屋台にも行ってみよ?」
過去の事に触れられて嫌なのは由莉も一緒だったし、えりかにも何となく分かったからそれ以上は詮索するのをやめる事にすると、3人は気を取り直して屋台を見て回った。
「葛葉ちゃん、まだ食べれる?」
「少しお腹いっぱいだけど、もう少しなら行けるよ。由莉ちゃんは?」
「私は……まだ行けるかな? えりかちゃんは―――」
「ゆりちゃん、あの『アメリカンドッグ』欲しいっ」
まだまだ食べ足りませんと下駄を鳴らしながら屋台へ走っていくえりかに2人は顔を見合わせ、少し笑うと見失わないように追いかけていった。
――――――――――――――――――
到着すると、お金を管理している由莉が屋台の人にお金を渡し、アメリカンドッグを3本受け取った。
お好みでケチャップとマスタードを付けていいと言われた3人は自分の思う分量だけ付けた。
葛葉はケチャップのみ、由莉はケチャップ多めのマスタードを少なめ、えりかは……マスタードをかなり多めに塗ったくった。
「え、えりかちゃん……それ大丈夫?」
「うんっ……たぶん?」
よく分からずに付けていたえりかは首を傾げると、葛葉は思わず顔を引き攣らせた。
(えりかちゃん……強く生きてね……)
「いただきま〜すっ、あむっ……もぐもぐ……うんっ、甘くておいし――――んんんーーーーっ!!??」
もはやマスタードの巣窟と化していた先端の部分を齧ったえりかは最初は甘くてふんわりとしたホットケーキのような生地にうっとりとしようとしていた………が、その寸前でその甘さをぶち壊すマスタードの辛みが流星群の如く襲来し、口が即座に非常事態宣言を発令した。
「辛いからいからいっ! なにこれ……ううっ、鼻がツーンってするし……なみだも……」
「え、えりかちゃん! これ飲んで!」
涙目で地団駄を踏むえりかに、由莉は道中で買ったカルピスのフタを開けて渡すと、半分くらいあった真っ白な液体を全て飲み干してしまった。
「んぐ……んぐっ…………ふぅ、からかったぁ……」
「あんなにマスタードをかけたら……ね」
「く、くずはちゃん先に言ってよぉ〜!」
ひぃひぃ言いながら狼狽えるえりかなのだった。流石にこれを全部はえりかの口が持たなそうだったので、2人は軽くマスタードの部分を拭き取ると、その上からケチャップを割と多めにかけてあげた。
「それじゃ、色々あったけど……食べよっか!」
「うんっ!」
「うん!」
そうして、3人の波乱と楽しさ入り混じる夏祭りの時間はあっという間に過ぎていったのだった。
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