由莉と葛葉の交わり
二人とも、気がつけば空になった袋を見て呆気に取られていた。
「お、おいしかったから……仕方……ないよね?」
「また……えりかちゃんが来た時に買おっか」
「そうだね……あはは……」
顔を見あって致し方ないと二人は引きつらせながら笑っていた。
屋台もひと通り見た二人はこれ以上何かを食べると、えりかが来た時に満腹は洒落にならないと感じ、祭りの会場から少し離れた所にある石段の上に座る事にした。えりかと音湖が来た時、すぐ分かるようにと言うのもあった。
「ふぅ……今日は色んな事があったなぁ……」
「私も疲れたよ……まさか誘拐されるなんて思ってなかったから……」
そうやって二人は夜の空をぼんやりと眺めていた。
「きれいだね、葛葉ちゃん……」
「うん。あっ、由莉ちゃん、星座って知ってる?」
「ううん……全然知らないよ……」
星座なんて初めて聞いた由莉は首を傾げていた。綺麗な星だと思っていたが、その形までは知らなかった。
そうしている由莉に葛葉はすぐ近くまでよると紺色の空の一点を指差した。
「由莉ちゃん、あそこを見て? 他の星より強く光っている星が3つあるのが分かる?」
「あれ……なのかな?」
葛葉が指差した方向を見ると、少し広い感覚で3つの強く光っている星が逆三角形を形作っているように見えた。
「うんっ、あれが『夏の大三角形』だよ。左上から順番にデネブ、アルタイル、ベガ……ちなみに、ベガは織姫、アルタイルは彦星って言われてるんだよ?」
織姫と彦星の話くらいは由莉も知っていたから葛葉の話に引き込まれて言った。
「そうなんだ〜! 葛葉ちゃんって星のことすごい知ってるんだね」
「うん、星は大好きだからね。ここは本当に星空が綺麗なところだよ……」
「うんっ、それに涼しいしね」
ひんやりとした風が頬を撫でるのを感じながら由莉と葛葉は、ただぼんやりと星が輝く空を見上げていた。
「ね、由莉ちゃん……少しいい?」
「ん? な〜に?」
ふと、もじもじしながら話そうか話さないか迷っている葛葉を由莉はそっと話すのを促すように優しく滑らかな口調で答えた。すると、葛葉も覚悟を決めたようで由莉の顔をじっと見た。
「……変な事を言うかもしれないけどね? 私……由莉ちゃんと、」
「―――待って! ……多分だけど、私も葛葉と同じく事を思ってる」
葛葉の言わんとしている事が何となく分かった由莉は手のひらを突き出し葛葉を制止させた。そして、その様子に葛葉は驚きを隠せずにいた。
「ぇ……? いや、でも……本当に変な事だよ? 聞いたら笑っちゃうよ?」
「うん、葛葉ちゃんと同じこと……私も思ってるよ。……せーので言ってみる?」
「わ、分かった……せーのっ」
ありえないことなのに、ありえるかもしれない。そんな思いが重なり合いながら二人はその真意を確かめた。
「私、葛葉ちゃんと……」
「私、由莉ちゃんと……」
―――運命はどんな場合でも交わるものだった
「「どこかで会ったことある……?」」
「っ!? やっぱり……葛葉ちゃんもそう思ってたんだ……」
「由莉ちゃんも……だったんだ」
―――初めて葛葉ちゃんと面を向かいあった時……なんだか胸がトクンってした。なんでだろうってずーーっと考えてた。
―――初めて由莉ちゃんの顔を見た時……何だか、初対面ではない風に思えた。でも……どうしてなんだろう……。
「ねぇ、葛葉ちゃん。私を……どこかで見たことある?」
聞いては見たが見るはずがない。この4年間誰とも一切の交流を断っていた由莉は最低4年は誰とも会っていないのだ。
「ううん、私もここが初めて……でも、なんでだろう……由莉ちゃんと初めてあった気が全然しないよ」
「なんでだろう……不思議だね」
謎めいたこともあるものだと由莉と葛葉は頭を悩ませていたが、少し遠くから聞こえてきた車の音を聞いた瞬間、考えるのをやめてパッとその方向を見た。
「あっ、えりかちゃんと音湖さん帰ってきた!」
「葛葉ちゃんっ、行こっ!」
待ちに待っていたとばかりに由莉は立ち上がり葛葉と手を繋ぐと、二人で並んでその車のあとを追いかけたのだった。
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「ゆりちゃんっ、くずはちゃんっ、お待たせ!」
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