由莉と葛葉は見て回りました
「由莉ちゃん、食べたいものとかある? たくさん食べていいからね?」
「えへへっ、じゃあ何食べようかな〜」
由莉の天使のような笑顔を見た葛葉は同じ女の子でもすごく可愛いと思ってしまった。何一つ曇りない天真爛漫という言葉がなによりも似合っていた。
「あっ、でもすぐにえりかちゃんも来ると思うからあまり食べちゃったら怒っちゃうかもしれないから……何食べようかな……」
そう言いながら、周りをきょろきょろしている由莉が、初めてお祭りに来た時の自分と重なって見えた葛葉はとりあえず聞いてみることにした。
「由莉ちゃん、もしかしてお祭りは初めて?」
「う、うん……」
「じゃあ……私が色々おすすめの屋台紹介するよ? ここじゃないけど何回かお祭りには行ったことがあるし」
「ほんと!? やった〜っ」
由莉は満面の笑みで葛葉に抱きついた。ここにどんな食べ物があるのかよく分かっていなかった由莉にとっては、すごくありがたい提案で嬉しかった。
葛葉も急に抱きつかれびっくりしたが、可愛い妹が出来たみたいで嬉そうに顔を綻ばせた。
「よしっ、由莉ちゃん行くよー」
「あっ、葛葉ちゃんそんなに張り切ってたら……っ!」
「ひゃっ!?」
張り切りすぎた葛葉はまたも段差に躓き転びそうになったが咄嗟に由莉は葛葉の負担にならないように下敷きになった。
「ゆ、由莉ちゃん!? 大丈夫!?」
「んん〜!
そして……由莉は苦しんでいた。床に頭を打った訳でもなく、足を擦りむいた訳でもなく……葛葉の……胸の下敷きとなって。息を吸う寸前に止められ、苦しくて窒息しそうになり足をばたつかせていた。
「ご、ごめんなさいっ」
「ぷはっ! はぁ、はぁ……し、死んじゃうと思ったよ……」
急いで退くと、由莉は一気に身体を起こして酸素を肺の中に取り込んだ。十数秒ぶりに吸える空気はありがたみさえも感じてしまった。
「葛葉ちゃん大きいね……」
「なっ……ゆ、由莉ちゃん、恥ずかしい……」
ジトっと由莉の見つめる視線をある部分に向けられた葛葉はどんどん赤面していった。由莉もじっと見ていると少し、自分と比べてしまい何故か腑に落ちなかったが、とりあえず何か食べたいと思った由莉はそんな考えをひとまず捨てることにした。
―――人それぞれだから仕方ないのだと。
「それじゃあ、葛葉ちゃん行こっ?(同じ女の子なのに……やっぱり年下だからなのかな……?)」
「う、うん……?」
何か意味ありげに言う由莉の事を不思議に思う葛葉だったが、気にせずについて行った。
★☆★☆★☆★☆★☆★
その後は、葛葉が色々と屋台で売っているものについて教えてくれながらゆっくりと歩いていた。すると……由莉はある1つの屋台で足をピタリと止めた。
「ベビーカステラ……?」
「これは……うーん……食べてみた方が早そうだから食べる?」
「うんっ!」
由莉は嗅いだことのない甘い匂いに蕩けそうになりながらも、財布の中から野口英世さんを取り出すと、ハチマキを頭にくくった青年の元へと差し出した。
「40個入りのベビーカステラ一つくださいっ」
「はいよ、毎度あり! ……ん?そう言えば、君……もしかしてあの射的の子かい?」
「た、多分そうだと……」
多分そうだと由莉は恐る恐る頷くと青年は豪快に笑い飛ばしながら二人に袋を手渡した。
「はははっ! そりゃあいい! 俺も見てたけどあの店のおっさんが青ざめるところなんてもう最高だったよ! はいよっと、二人には特別にサービスしといたから、仲良く食べな!」
「わぁ、ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
気さくな上にオマケまでくれたその青年に二人は笑顔でお礼をするとその屋台を後にした。
★☆★☆★☆★☆★☆★
「あーむっ、んん〜おいひい〜」
由莉と葛葉はその袋の中から1つずつ手に取るとすぐに口の中に放り込んだ。ふんわりとした食感とカスタードのほんのりとした甘みが葛葉の緊張や由莉の運動の疲れを優しくゆっくりと溶かしていった。
「運動の後の甘いものって本当に美味しいよ〜」
「そ、そうだよ……ね」
(う、運動? 確かに由莉ちゃんは怪我してなかったけど……大人3人相手に……? どういうことなの?)
由莉の発言に葛葉はびっくりして手に持ってたベビーカステラをポロッと落としかけたが、何とか落とさずにすんでほっとしつつ、急いで口の中へと投げ入れた。
「はむっ……ん〜やっぱり美味しい〜」
幸せそうに目を閉じて歩く葛葉を少しだけ心配しながらも、その様子に由莉自身も嬉しくなった。
(やっぱり、葛葉ちゃんも助けられて良かったよ〜早くえりかちゃんも戻ってこないかな〜)
由莉と葛葉はそうしてえりかの分が無くならないようにと、思いながら色々な屋台をえりかが来るまで待とうとしていた。
だが……ベビーカステラの程よい甘さが病みつきになってしまい、止めようとしても、1個、また1個と2人とも手を伸ばしてしまった。
―――まだ大丈夫、40個もあるんだから大丈夫……そう思っていた。
――――そして、気づけば袋の中は空となっていた。
「あっ」
「やっちゃった……」
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