由莉は暖かくなりました/ラウの湖音



「くずは……ちゃん」


「葛葉、ちゃん……」


(あれ……?初めて聞いた名前なのに……どうして胸がこんなに暖かいんだろう……)


 まるで、もう会ったことがあるような……なんて由莉は考えてみたが、面識が一切なく気のせいだと頭を振った。


「……あのっ、二人にお願いがあるんだけど……いい?」


 すると少し恥ずかしそうにしながら、その豊満な胸の前に手を当てる葛葉の言葉を聞いて、由莉もえりかも笑顔で首を縦にふった。


「いいよね、えりかちゃん?」


「うんっ、くずはちゃん言ってみて?」


「……私も、一緒にお祭り付いて行っていいかな? 私……つい最近ここに引っ越してきたばかりで友達が全然いないし……その、由莉ちゃんやえりかちゃんとも仲良くしたいから……」


 由莉とえりかはそんなことかと葛葉の手をしっかりと握った。


「もちろんだよ! たくさんいた方が楽しいし!」


「わたしもくずはちゃんと一緒に行きたい!」


 突然の行動に葛葉は驚いたが二人の暖かい言葉に目をうるっとさせていた。ようやく、助かったんだという実感が湧いてきてその嬉しみも相まってのことだった。


「由莉ちゃん、えりかちゃんありがとう……!」


 肩を震わせている葛葉の背中を由莉とえりかは優しく撫でて落ち着かせてあげた。二人とも葛葉の気持ちが痛いくらい分かった。


 葛葉もやっと落ち着いたところで阿久津は全員に戻るように声をかけた。


「さて、皆さん戻りますよ……と、でも、えりかさんの服が汚れてしまっていますね……ねこ、確か車の運転出来ますよね?えりかさんを連れて着替えに戻ってあげてください」


「りょーかいだにゃ。……にゃ!? ごめんにゃ、うち少し落し物をしたみたいだから探しに行ってからにするにゃ。すぐ戻るから安心してにゃー!」


 音湖はあたふたしながら焦って雑木林に入っていくのをえりかを中心に、左に由莉、右に葛葉の順に手を繋いでいた3人は見ていた。


(音湖さん……面白いひとですね……少し私に近いものを感じます)


 葛葉はそのくらいにしか思ってなかったが、由莉とえりかにはその異常性が何となく分かってしまった。


(振り返るほんの一瞬……音湖さんすごい顔をしてた……あの顔……本当の猫みたいな……獲物を狙うような目だった……っ!)


(ねこさん……もしかして…………本気なの?)


 二人は葛葉に悟られないように顔には出さず、その雑木林から出て祭りの会場へと向かうのだった――――。


 ★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


 〜その頃、雑木林の奥〜


「くっそぉ……っ!なんだったんだよ、あのガキ共は!!」


 脳震盪から回復した男達は月光が他より指している場所でイライラを募らせていた。一人の男はブチ切れながら樹木を馬鹿みたいに蹴りまくっていた。


「あの小さいガキに鼻をへし折られた……いてぇ……あのガキ探し出してぜってぇぶっ殺してやる!」


「あいつらの顔は覚えた。忘れるわけがねぇし、このあたり探せばすぐ見つかるだろ」


「あーうぜぇ、もう祭りのガキを人質にしてそいつらをおびき寄せるか」


 受けた屈辱を何倍にもしてあのガキ二人に返してやると男達5人は復讐の色で燃え上がっていた。……が、


「そうだ、それがいい! ならさっさとガキ何人か……おぶっ!?」


 突然、その内の一人の首がボトリと転げ落ち大量の血が流れた。その様子に残りの4人は何があったのか判断し、動く前に…………






 全員の首が切り落とされた。





(誰にも知られなくても別にいい。ただ……何も悟られないように……






 )





 一切の容赦を見せずに全員の首をほんの10秒もかからず飛ばしたのは―――紫の着物を着た黒髪の女性―――音湖だった。


 血のついたナイフをさっと血払いして鞘にいれると何事もなかったかのように去っていった。

 武器だけを血に濡らし、自身は一切血を浴びることはなかった。


 何事もないように去ろうとした時、少し離れたところに呻き声が聞こえ音湖はピタリと走る足を止めた。


(あぁ……そう言えば、6人いるんだっけ。まぁ、放っておけば死ぬか)


 音湖はそれがある方向を一瞥すると雑木林をするりと抜けて阿久津達の元へと走っていった。




 その男達が発見されたのは何年も何年も後の話だった。



 ―――白骨遺体として。

 胴体と頭蓋骨が5セット。

 お腹の部分で上下に別れ、腕が真っ二つに折られた『モノ』が……1セット。


___________________


もうわかってると思いますが、葛葉はif編で出てきているキャラです。気になる方はぜひ見てみてはどうでしょうか?

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