由莉と浴衣

由莉は恐る恐る服を脱いでその素肌を顕にさせるとその現状に音湖は目を見開いた。


「……これは予想以上かにゃ。……よくこれで内臓の損傷がなかったのか不思議なくらいにゃ」


「…………お母さんの機嫌を損ねないように本当に危ないものだけ当たらないように守っていたからですかね……」


____確かにそれなら納得は行くにゃ。けど……そんな事が前の由莉ちゃんに出来たのかにゃ?


音湖は疑問でならなかった。そこそこ反射神経があればいけなくもない話だったが……それも音湖基準での話だった。この事実が示すことはなにか、そう考えた時、音湖は一つの仮説を導き出した。


(由莉ちゃんが……以前から既に常人の域を超えた危険回避能力をもっていたなら……有り得る話にゃ。本当は試すのが一番だけどにゃ……やったら間違いなく嫌われるにゃ。……また会った時にでもいいかにゃ)


「……取り敢えずこれを着る前にまずこの白いやつを着るにゃ。汗が浴衣に付くとベトベトになって不快だにゃ」


「はい……」


由莉は手渡された白くて少し薄めの装束に袖を通すと次はその浴衣を手渡された。由莉が少し慣れない様子で着ようとしていたので少しからかってみようと音湖の目がキランと光った。


「ちなみに由莉ちゃん、着物と浴衣はどっちの襟を前にすればいいか分かるかにゃ?」


「右前ですよね」


「にゃ……知ってたにゃんか?」


____ちなみに左前は幽霊の着方なのにゃ。少しは迷うと思ったけどにゃ……まさか名称も含めて即答するとはびっくりにゃ。


「はい……実は前から浴衣は少しだけ調べていたんです。まさか……本当に着られる日が来るなんて思ってなかったです」


嬉しさを言葉に織り交ぜながら話す由莉を音湖も頷きながら聞いていた。


「にゃはは、そう言ってくれるなら、うちもこの仕事やってて正解だったと思うにゃ。さ、時間もないし、えりかちゃんもやらなくちゃいけないから少し急ぐにゃ!」


由莉はその浴衣を着ると帯の紐は音湖がぱぱっと済ませてしまった。由莉もされるがままに見ていたが、かなり複雑な結び方で一人でやるのが相当難しそうだった。それを音湖が難なくやってのけるものだから、すごい、としか言葉が出てこなかった。


「さて、出来たにゃ〜あとは下駄と小物入れを持てば完璧にゃ。髪は……もうそのままでも十分過ぎるくらい由莉ちゃんは可愛いからいいかにゃ」


「あ、ありがとうございます!……って音湖さんまで……うぅ……」


可愛いという言葉を言われるのにまだ慣れない由莉は少し恥ずかしくてほんのり顔を赤らめた。


「さて、えりかちゃんにも見せておいでにゃ。由莉ちゃんの事を心配してると思うから早くその姿を見せてあげるにゃ」


「っ、はい!」


由莉は音湖に頭を下げるとまだ慣れていない浴衣でトテトテと小走りしてえりかの元へ向かっていった______


(なるほど……にゃ、あっくんも好きになる訳だにゃ。でも、それだけじゃない気がするにゃ……確かに由莉ちゃんは可愛いけど……それだけであのあっくんがここまで変わるなんて有り得ないにゃ……)


________________


____ゆりちゃん、遅いなぁ〜何してるんだろ。ねこさんは、楽しみにしてて、って言ってたけど……うーん…………


「えりかちゃん、ただいま♪」


「っ!ゆりちゃん、おかえ……り…………」


待っていた声が後ろから聞こえ振り返ったえりかは由莉の浴衣を纏っているその姿に目を見張った。

白の中に桃色の花が咲いているような柄の浴衣は由莉の為に存在しているのではと思ってしまうくらいぴったりだったのだ。


「ど、どうかな……」


「うん……っ、かわいい……すごく可愛いよ、ゆりちゃん!」


「そこまで言われると……照れるよ……っ」


音湖の可愛い単発に加え、えりかの可愛いの2連撃に由莉の顔はまたさらに赤みを増していた。


すると、2人の時間を作ろうとしたのか少し間を置いて音湖が部屋へと入ってきた。


「さて、えりかちゃんもこっちに来るにゃ。もう、あっくんがやってきそうだから早めにやっちゃうにゃ!」


「はいっ。じゃあ行ってくるね、ゆりちゃん」


「行ってらっしゃい、えりかちゃん!」


えりかは由莉に見送られながら音湖に連れられてその部屋へと入っていった。


そして、その部屋の光景を見たえりかも、



「きれい…………っ」



____由莉と全く同じ反応なのだった。

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