由莉は振り回されました
「おっっまたせにゃあーー!」
「ひゃ!?」
「ひっ」
扉を壊しそうな勢いでドアを開けた音湖を見て由莉とえりかはびっくりして変な声が出てしまった。
「にゃ?そんなびっくりしてどうしたのにゃ?」
「ね、音湖さんがそんな大きな音出すからですよっ」
「びっくりしました……」
口揃えて文句を言う二人に音湖も少し笑いながらサラッと誤魔化した
「にゃはは、ごめんにゃ。まぁ、それはそれとして___由莉ちゃん」
「は、はい……なんでしょうか?」
やっぱりさっきの事が少し頭をよぎり硬い返事になってしまった。
すると……由莉の目の前で音湖が頭を深々と下げた。
「えっ……?」
「あっくんから大体の事は聞いたにゃ。……さっきはゆりちゃんの事も知らずに悪いことを言っちゃったにゃ。本当に……ごめんなさいにゃ」
由莉は目の前の光景を理解するのには時間はかからなかったが、どう返せばいいのか分からなかった。けど、正真正銘の本意なのは伝わってきた。
「音湖さん、頭を上げてください。私も……なんて言えばいいか…………」
「許してくれるにゃ!?よしっ、それじゃ由莉ちゃん行っくにゃ!」
許してくれそうな気配を感じたようで音湖がすぐに頭をあげると由莉を肩に担いでさらに奥の方へと向かっていった。
「ひゃ!?何するんですかー!離してくださーい!」
「にゃはは、子供はそうやってはしゃいでいるのが一番にゃ!さて、時間もないにゃ。由莉ちゃんから先にやってくにゃ!」
手足をバタバタさせるも全く効果なく音湖に奥に連れてかれそうになっていた。
「え、えりかちゃーん!」
「ゆりちゃん!」
「えりかちゃんはそこで待ってるにゃ!すぐにびっくりさせてあげるにゃ♪」
「えっ……?」
由莉の最後の足掻きも失敗し音湖によってさらに奥の部屋に連れていかれてしまい、そこにはえりかだけがぽつーんと佇んでいた。
(ねこさん、エネルギーがすごいよ……ゆりちゃん大丈夫かな……)
__________________
由莉は音湖に担がれ別の部屋に入るとようやく降ろされた。
「どうしてこんな無理や……り…………?」
文句の一つでも言ってやろうと意気込んでた由莉だったが、そんな気持ちも煙のように掻き消されてしまった。
目の前にはこれでもかとばかりの赤や青、黄色やオレンジ、紫の柄の浴衣が一面に広がっていた。
「きれい…………っ」
由莉も初めて見るものだったがもうその言葉しか出てこなかった。
「にゃはっ、それはよかったにゃ!……そう言えばうちが何やってるか言ってなかったにゃ。この『唐柏』は浴衣や着物を取り扱ってる店なのにゃ。まぁ、小さい店だから客はあまり来ないけどにゃ」
少し自嘲気味に話す音湖だったが、由莉はそれが聞こえないくらい夢中になって浴衣を見ていた。
「にゃ……無視かにゃ。でも、由莉ちゃんがそこまで気に入ってくれたならよかったにゃ!さて、由莉ちゃんは何か気に入ったものが__」
「これ……これがいいです!」
由莉が指さしたのは白基調でピンクや淡めの紫の花が散りばめられたような可愛らしい浴衣だった。
「にゃ〜?由莉ちゃんやっぱり桃色が好きなのかにゃ?」
「はい、すごく好きです!」
「うん、分かったにゃ。サイズあるか確認するから少し待つにゃ〜」
そう言うとまた音湖は部屋を凄まじい勢いで出ていった。
(なんだろう、すごくエネルギーがある人だなぁ、音湖さんって)
慌ただしいと言うべきなのかテンションが高いと言うべきかよく分からなかったが、面白い人だなぁと由莉は思うのであった。
少し時間が経つと再び足音を響かせながらドアをぶち抜くように音湖が入ってきた。
「由莉ちゃん、待ったかにゃ?」
「いえ、全然です!……音湖さん、そんなに勢いよくドア開けて壊れたりしないんですか?」
「にゃ〜2,30回は?」
「もっと優しく開けてくださいっ!」
キレのいいツッコミに音湖も「にゃ!?」と声が出てしまった。
「由莉ちゃんは面白い子だにゃ、ますます気に入ったにゃ。にゃ、そう言えば欲しがってた柄のサイズだけど奇跡的に1着あったにゃ!140なんてあまり取り扱ったことないから少し不安だったけどよかったにゃ」
音湖が持ってきた同じ柄の浴衣を見せると由莉は目をキラキラさせた。胸がときめくような気分だった。
「わぁ……ありがとうございます、音湖さん!」
「いいってことにゃ。……にゃっ、また忘れてたにゃ…………」
豊満な胸を張ってふんぞり返っていた音湖だったが何かを思い出したようにがくりと項垂れてしまった。そんな様子に由莉も心配になって音湖のそばまで駆け寄った。
「どうしたのですか?」
「よく聞いて欲しいにゃ……浴衣は最初から一人でやるのは少し難しいのにゃ。だからうちが着付け手伝う予定だったんだけどにゃ、その為にも1回服を脱がないといけないのにゃ……由莉ちゃん、裸見られるの嫌なんだよにゃ?」
「…………」
「だったらしゃーないにゃ……無理にとまでは言わな___」
「……見ても怖がりませんか?」
由莉は振り絞るような声で言うと音湖は不思議そうにポカンと口を開けていた。
「にゃにゃ?うちが怖がると思うのかにゃ?あの方のお気に入りなのも少しはあるけど、こんな可愛い子猫ちゃんを怖がるなんて考えるだけでもバカバカしいにゃ」
「っ!」
音湖の言葉には不安を軽々と一蹴してしまうくらいの力強さ、そして大人だからこその包容力を感じ由莉もこの人にならと安心出来た。
「……音湖さん、お願いしてもいいですか?」
「にゃ!うちに任せるにゃ♪綺麗にしてあげるにゃ!」
由莉に受け入れられて嬉しかったのか音湖も満面の笑みを浮かべていたのだった。
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