由莉とえりかの想い

 二人は左右に分かれるとお互いに似合いそうなものを取りに向かった。


「えりかちゃんに似合うもの……あれかな……」


「ゆりちゃんに似合いそうな……あれだよね」


 本当は二人とも自分に似合うものは分からなかったのにお互いに似合いそうなものを見つけていたのだ。しかもサイズまで確認する周到ぶりだ。


「うん!これかな」

「これ……だよね」


 二人が手にしたものは偶然にもすぐそばにあり、手に取った瞬間にお互いの存在に気づいた。


「あっ、えりかちゃん」

「ゆりちゃん……」


 何を取ったのかちらっと見た二人は思わず笑ってしまった。


「あははっ、考えてる事、一緒なんだね」

「くすっ、同じこと考えてくれたんだ……嬉しい」


 由莉が選んだのは半袖のカットソー(Tシャツのようなもの……?)で胸元には赤い糸で縫い付けられた白いボタンが縦に5つ並んでいるものだった。

 そして、ベースの色は…………水色。


 えりかが選んだのは袖が肩先が隠れるほど短く、その先にはフリルがこしらわれてるキュートな服だった。

 ベース色は…………淡い桃色だ。


「どんな服がいいかなって思ったんだけどやっぱりえりかちゃんは水色が一番似合うと思うよ」


「わたしも、ゆりちゃんはピンクがいいかなって」


 ずっと同じ色の入ったジャージを着て過ごしていた二人には由莉はピンク、えりかは水色と認識しあっていた。


「あとは下だけだね。これは自分で決めよっか。……実はもう私は決めてる……けどねっ」


「えーっ、ゆりちゃん早いよ〜」


 若干すねるえりかに対し由莉は小悪魔のようにニカッと笑った。


「阿久津さん、試着って……出来ますか?」


「はい、あそこにある個室で着ることが出来ますよ」


「う〜ん……阿久津さん少し見てくれませんか。あっ、えりかちゃんは決まったら同時に見よ?」


「う、うん……」


「じゃ、行ってくるね〜」


「えりかさん、この店から出ないようにしてくださいね。何かあれば試着室まで来てください」


「わ、わかりました……」


 仲間はずれにされたような気分で少し寂しかったえりかだが、由莉にも考えがあるんだと割り切ると、阿久津と由莉を見送った。


(一人だと、こんなに寂しいんだ……ゆりちゃん早く帰って来ないかな……)


 自分は今一人なんだという自覚が芽生えると次第に不安が心を塗った。今までいてくれた由莉が今はいない、その怖さが心をつんざいた。


(だめだめ、ゆりちゃんが来るまでには何とか決めていたいな……)


 えりかはズボンやスカート売り場をなんとなく見回すも何だかパッとしなくてどうしようかと項垂れた。


(これじゃ、いつまでも決められないよ……何かあれば……決められるきっかけがあったら……。さっきは、ゆりちゃんがわたしがいつも来ているカラーの服をえらんでくれた。……あっ、それなら!)


 えりかは何かに気づいたように戻って『あれ』があるか不安だったけど絶対に見つけたくて必死に探した。その想いが通じたのか奇跡的に自分のサイズと合うものを見つけて、張っていた気が一気に抜けたような気がした。


「良かった〜なんとか見つかった……」


「え〜りかちゃん、見つかった?」


 後ろから軽く2回肩を叩かれたえりかは飛び上がりながら振り返ると思わぬ反応に目を丸くしている由莉の姿が見えた。


「ひゃっ、おどかさないでよ〜」


「ごめんごめんっ。それで、どうだった?」


「うんっ、見つかったよ。ゆりちゃんはどうだった?」


 そう尋ねられた由莉は少しもじもじしながらその時に言われた事を話した。


「…………着てから阿久津さんに見せたんだけどね

 、そしたら「惚れました」って言うんだよ?思わず叫びそうになっちゃったよ」


「ふふふっ、阿久津さんらしいね。そのくらいゆりちゃんがすごく可愛いって言ってるんじゃないかな?」


「……えりかちゃんみたいに言ってくれれば私だって素直に嬉しいのに……うぅ……」


 少し肩を落としている由莉の頭を宥めるように撫でてあげるとえりかも阿久津に見てもらうために試着室へと入った。


「出来たら教えてくださいね」


「はいっ」


 えりかは着ていたジャージ上下を脱ぎ、持ってきた服に着替えると鏡で自分の姿を見た。


(こんな感じなんだ……すごい。自分じゃないみたいだよ……)


「阿久津さん、できましたっ」


「はい、では見せてください」


 そう言われ、えりかは個室のカーテンを開けた。すると、阿久津は見た瞬間に納得した表情で頷いた。


「なるほど……いいですね。それにしましょう。……にしてもやはり二人なんですね……」


「……?」


 最後の言葉を聞き取れなくて疑問に思ったが、とりあえず来たものを一旦脱いでハンガーにかけると阿久津に渡した。えりかは由莉が近くにいなかったから、絶対に同時に見たいんだなと確信した。


 阿久津が代金を支払い、2つの袋を持ったところでえりかと由莉は合流した。


「えりかちゃんどんな服選んだのかな〜ちょっと楽しみだよ!」


「うんっ、わたしも!」


 お互いに笑顔で頷くと再び個室へと入り着替えた。


「ゆりちゃーん、終わった〜?」


「うん!じゃあ、せーので開けよっか」


「分かったっ」


 ___これもえりかちゃんと同じだったら私泣いちゃうかな……


 ___ゆりちゃんと同じ……かもしれないし、そうだったら多分泣いちゃうよ……


「せ〜の!」

「せ〜のっ」


 二人は一気にカーテンを開けるとすぐにお互いの事を見た。


「……っ!やっぱり……」

「っ!!ゆりちゃんも……」


 二人ともスカートを着ていたが、由莉はジャージ素材で作られた膝下くらいまでの長さのもの。当然、色は水色だった。

 対するえりかは優しいピンク色の膝下が少し隠れるくらいのまっすぐなものを選んでいた。


「えりかちゃん……っ」


「ゆりちゃん……すっごく可愛いのに泣いたらダメだよ……っ」


「ぐすっ……えりかちゃんだって……泣いてるじゃん……」


 やっぱり一緒だったんだと喜びや衝撃などの感情が絡み合い、涙が目に浮かんだ。

 二人がスカートの色を選んだ理由、それは……


 ―――ゆりちゃんと一緒にいたいから……

 ―――えりかちゃんと一緒にいたいから……


 それを表現する精一杯の手段としてお互いの色を自分に取り入れようとした。二人とも考えてる事は同じだったのだ。


 ふと周りの目を気にした由莉とえりかはサッとカーテンに隠れて涙がおさまるまでほんの少しだけそこにいたのだった。


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