由莉とえりか 後編


「…………そっか」



「なんで……そんな大事なこと言わなかったの……?」



 えりかが悲しそうな声で由莉にそっと問いかけると由莉は少し焦ってしまった。



「それはっ…………お礼をされるためにやった事じゃないし……ただ、えりかちゃんを助けたかったからであって…………っ?」



 そんな由莉をえりかは寄り添ってやさしくぎゅっと抱きしめた。由莉は不思議に思いながらもそのえりかの温かさにうもれた。



「やっぱり、ゆりちゃんは優しいよ…………どんな事をしていてもそれは……変わらないよ」



「えりかちゃん……」



 すると、由莉は首筋に冷たい何かが垂れたのを感じ、ふとえりかを見ると___えりかは目を閉じながら涙を流していた。悔しさや怒りで出るものとは違う、優しい涙だった。



「……ほんとはね、初めてこの事を阿久津さんから聞かされた時…………ゆりちゃんのことが怖くなっちゃった……。だから、謝らなくちゃいけないのはわたしなの…………ごめんね、ゆりちゃん……っ」



「っ、なんで……えりかちゃんが謝るのさ……私こそ、もっと早く言わなくちゃいけなかったのに…………ずっと黙ってた私の方が謝らなくちゃいけないのに……っ」



 由莉は涙を見られないようにえりかにくっつきながら、反対を向いて静かに泣いていた。だが、それもえりかは分かっていたようで由莉の頭を羽毛に触れるようにそっと撫でてあげた。



「そうだね……もう少し早く言って欲しかったな……だって、こんなにもゆりちゃんが苦しむ姿見たくなかったよ…………」



「ごめん……ごめんね、えりかちゃん…………っ」



 何度謝っても由莉の気は晴れなかった。それだけの事をえりかにしてしまった、と悔やんでも悔やんでも悔やみきれなかった。



「もういいよ、ゆりちゃん……わたしはゆりちゃんが側にいてくれたら……もうそれだけでいいよ」



 由莉はそのまま少しの間だけ、えりかの胸の中にうずくまっていたのだった。



 ___________



「えりかちゃん……こんな私とでも……一緒にいたい?」



 ひとしきり泣いた由莉は目の周りを赤くして、えりかにそう尋ねた。すると、えりかは少し笑うとうんっ、と頷いた。



「……何いってるの、ゆりちゃん…………わたしはゆりちゃんだから一緒にいたいんだよ。わたしも……ゆりちゃんのことが大好きだから」



「……っ!!」




 _____すべてを知っても



 _____人殺しだと知ったとしても




 側にいてくれると言ってくれた、こんな血に濡れた自分の手をそれでも取ってくれたえりかに由莉の心は救われた。



「…………っ」



「ゆりちゃん!」



 由莉はそのまま気が抜けたかのように膝から崩れ、えりかもすぐに由莉を支えるように膝立ちになった。



「ゆりちゃん、大丈夫?」



「うん、ちょっと気が抜けただけだよ……んしょっと」



 由莉はえりかの手を掴んでなんとか立ち上がると、覚悟を持ってえりかに正面から向き合った。



「えりかちゃん、これからも……こんな私だけど、よろしくお願いしますっ」



 出来る限りのお礼をしようとぺこりと頭をさげた由莉を見て、えりかはあたふたしたがら由莉の頭を強引にあげた。



「もうっ、そんなことやめてよ………」



「で、でも…………」



 少し縮こまる由莉にえりかは肩を竦めながら由莉の前に手を差し出した。



「ゆりちゃん、またいつも通りに話そうよ、ね?」



 いつも通り、その言葉が由莉には嬉しかった。

 また、いつも通り___えりかちゃんと一緒に、



「うんっ、二人で!」



 その手を由莉はしっかりと握って離さなかった。そして二人の顔はお互い星のような笑顔だった。




 ___2人の間にあった仮初の絆はボロボロに崩れ去り、その後には偽物ではない、本物の絆が芽生えた。そして、これからもそれはずっとずっと紡がれていく。そんな物語になる!




















 …………と、由莉はその時、思っていた。



 だが、えりかは何となく分かっていた。この絆は……





 いずれ壊れる…………と。


 _________________


 第四章 二人で 〜完〜


 次回 第五章序章(3話構成)

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