由莉達は脱衣所にて__

 二人はしばらく入ると一緒に風呂場を出て脱衣所に入った由莉はカゴの中からおっきなバスタオル2つを持ってえりかの元まで行った。



「はいっ、えりかちゃんのだよ」



「ありがとう、ゆりちゃん!」



 二人はほぼ同タイミングで髪を拭き始めた。由莉もえりかも髪が長めだったから拭くのにはかなり時間がかかってしまった。その後は体に付いた水分を余すことなく拭いた。

 二人とも拭いたつもりだったがまだ水っけがあるらしく髪がいくつかの房に分かれているようにくっついていた。由莉は毎月1回、阿久津に前髪は切ってもらっているからそれほど視界の邪魔にはならなったが、えりかは前髪が目を覆うほど長いから髪の房が確実にえりかの視界を阻んでいた。



「えりかちゃん、やっぱり少し前髪気にならない?」



「う、うん……ちょっと気になるかな……」



 えりかも少し気にしてたみたいで少し邪魔そうにしていた。その時、由莉は少しいい事を思いついたようにニヤッと笑うといつも髪を結ぶとき使っているゴムのそばにあった『ある物』を一つこっそりと持っていくとえりかの目の前までいった。

 由莉の満面の笑みにえりかは頭にはてなマークを浮かべていた。



「ゆりちゃん……?どうしたの?」



「少しだけ……目閉じて?」



 えりかがびくつきながら目を閉じると、由莉はえりかの前髪を全部手に持つと全部左へとよせて、持ってきたそれ___アメピンで髪の毛をしっかりと挟んだ。由莉も初めてやったがうまくいったみたいで髪の毛が落ちる事はなかった。



「えりかちゃん、目開けてみて?」



「うん……、っ!」



 目を開けたえりかは少し唖然としていた。視界に髪がかからず、すごく解放的だった。何をしたんだろう、と近くにあった鏡でえりかは自分の顔を見ると少し邪魔だった前髪が黒色の何かで止められている事をようやく知った。



「すごい……すごいよ……!」



「……………………っ」



 嬉しそうにしているえりかを由莉は呆然と__見とれていた。



(どうしよう……すっごく可愛い……!)



 ぱっちりとした目もそうだし、髪型も然り、お風呂に入った後で頬が火照っている所も由莉の感性にどストレートではまった。我慢しようとしたが、抗えずに由莉はえりかに抱きついた。えりかはあまりにも急に抱きつかれ、わぁっ!?っと飛び上がった。



「ゆ、ゆりちゃん!?」



「……かわいい」



「えっ……?」



 由莉が何を可愛いと言っているのかえりかには分からないようだった。由莉はもう一度えりかの顔をじっくり見た。あの時、あった目の付近の黒い跡はもうほぼ分からないまでに薄くなり、明るい茶色の髪に黒よりのこげ茶の瞳がとてもよく似合っている。



「えりかちゃんかわいい……!」



「わ、わたしが……かわいい……?」



 由莉がようやく何を可愛いと言っていたのか知ったえりかは顔を逸らしながら顔を赤くした。



「うんっ、すっごく可愛いよ!」



「ゆ、ゆりちゃん……恥ずかしい……」



「かわいいなぁ〜うん、本当にかわいいよ〜」



「はうぅぅ………」



 少し俯いて目をうるうるさせているえりかを見てこれ以上やるのはかわいそうだと思った由莉は渋々えりかから離れた。



「むぅ、もっと見ていたかったのに…………あっ」



「どうしたの……あっ」



「服着てなかったよ……」

「ふくきてなかった……」



 二人はようやくその事実を理解し、仲良く顔をめちゃくちゃに赤く染めた。由莉はまだ使ってない下着1つをえりかに渡し、自分も着ると、急いで服があるロッカーの元へ駆けた。ロッカーを開けるとジャージが何着かハンガーに吊り下げられていた。



(私はいつもピンクしか来てないから……うんっ、こっちをえりかちゃんにあげよっと。絶対似合うと思う……!)



 由莉はいつものピンクのラインが入ったジャージ上下と一緒にえりかの分のジャージ上下も持つとえりかの所へ戻った。



「えりかちゃん、これ着て!」



「これは……?」



「私の使ってるジャージだよ。でも、ピンクのラインが入ったやつしか着てないから……『水色』のやつあげるよ!」



 えりかは由莉からそのジャージを受け取った。由莉の持っているジャージと基本のベース色は同じ深い群青色だが腕の部分に沿って入っているラインが由莉のは『ピンク』に対し、えりかのには『水色』が入っていた。



「……ありがとう、ゆりちゃん……すごく、嬉しいよ……っ」



「ううん、気にしなくても___って、えりかちゃん泣かないでよ〜」



 貰ったジャージを胸に埋めながら涙をこぼすえりかを由莉はあたふたしながらも少し自分の姿に重ねていた。



(マスターに……こうやってあのケースを貰った時の私もこんな感じだったんだっけ……嬉しいなぁ……本当に……っ)



 由莉はずっとこんな関係でいたいと少し考えてしまったが、いずれ壊れてしまうからと記憶の海に投げ捨てた。



「……さっ、えりかちゃんも早く着て?湯冷めすると身体に悪いよ?」



「……うんっ」



 二人はササッとジャージを身にまとった。案の定、えりかに水色が似合っていて由莉はすごく嬉しかった。



「やっぱり、えりかちゃんに水色すっごく似合ってるよ〜」



「うん、私も……この色好きだから嬉しい……。ゆりちゃんも本当にピンク色似合ってるし……それに……かわいいっ」



「えへへっ、えりかちゃんに褒められた〜♪……よしっ、戻ろっか」



「うん!」



 二人はお互いに手を繋ぎながら脱衣所を出ていった___

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