由莉は一つのやくそくをしました

 二人はその由莉の言葉を様々な思いで受け止めた。方や、激しい怒りで手のひらから血が出るほど拳を握りしめていた。大事な人がこんなにも苦しめられている。マスターから大切な人はどんな事があろうと大切にする、その思いを強く受け継いでいる阿久津は腹が立ってしょうがなかった。



 方や__ベットに飛び込んで由莉に上から抱きついていた。



 この行動には泣いていた由莉もキョトンとして涙がピタッと止まってしまった。



「えりか……ちゃん?どうし___」



 由莉はどうしたのかと聞こうとしたが、その時、耳元で微かに嗚咽をもらすえりかの声が聞こえてきた。由莉はそっとその明るい茶色の伸びた前髪の毛を上げると__顔をプルプル震わせながら目元を赤くしているえりかの顔が見えた。



「ゆりちゃん……なかないで?」



「えりかちゃん……」



「わたしは……ゆりちゃんになにがあったのか分からない。でも、ないているゆりちゃんを見るのは……くるしいよ……」



 その目に浮かぶ大粒の涙を見て由莉はえりかにとって自分がどんな存在かを認識させられた。



(えりかちゃんにとって……私は身近にいてくれた唯一の人。今のえりかちゃんには……私しかいないんだ。なのに私がこんな状態だったら……ダメだよね。気合い入れなきゃ)



 由莉は今も自分のために泣いているえりかの背中を優しく撫でてリラックスさせてあげると、まずはベットの上で半回転して、えりかを押し倒している形になった。

 急に由莉の下になったえりかは呆然としたまま由莉を見上げていた。



「ゆ、ゆりちゃん……?」



「えりかちゃん、ありがとう。……ごめんね、変なとこ見せちゃって怖かったよね」



 えりかは首を横に振って必死に否定しようとしていたが由莉にはバレバレだった。由莉は優しい手つきで両目を隠している前髪をかきあげてあげると金髪にも見える茶色の髪の向こう側に栗色の2つの潤んだ瞳があった。由莉にはその姿がとても愛らしくて堪らなかった。



「でも、もう大丈夫だよ。私はえりかちゃんの側にずっといるよ……ずっと」



「ほんと……に?」



「うんっ、約束だよ」



「…………うれしい……」



 その子の浮かべる笑顔を初めて由莉は見たような気がした。少しぎこちないけど、嬉しみを全面に漏れなく、さらけ出したような笑みだった。



 由莉はえりかを撫でながら今自分の言ったことへの覚悟を固めた。



(ずっといるということ。それは……私の正体をいずれ……えりかちゃんに話さなきゃいけない。私が……スナイパーだと言うこと。……人殺しだと言うことを。えりかちゃんには何も隠し事はしたくないからなるべく早く教えるつもりだよ。けど……きっとその時になったらえりかちゃんは私を怖がって離れちゃうんだろうな……)



 誰かが離れていくのは怖かった。それでも、隠し事をして一緒に過ごすよりはマシだと由莉は思ったのだった。



 そして、その2人の様子を阿久津は静かに眺めていた。邪魔にならないように、雰囲気を壊さないように____


(少し寂しいような気もしますがね……)

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