由莉は◯◯と呼ばれていました
「ゆり……ちゃん?しっかり……して」
えりかは気を失った由莉に近づくとゆさゆさと身体を揺さぶって起こそうとしたが由莉が目を覚ますことは無かった。
「どうして……?め……さましてよ……」
やっと止んだと思った涙が再びえりかの頬を濡らした。自分のそばにいてくれた人の意識がなくなったのに自分にはどうすることも出来なかった。
「だれか、いないの……?だれか……ゆりちゃんを……」
えりかにはもう誰かに助けを求めるしかなかった。えりかは立ち上がると精一杯、息を吸いこむと自分の出せる限り大きな声で思いを込めてその四文字を叫んだ。
「たすけてっ!!!」
すると、思いが通じたのか廊下を走ってくる音が聞こえたと思ったらドアを急いで開けて金髪のお兄さんが入ってきた。
「どうしましたか……って、由莉さん、由莉さん?しっかりしてください!」
その人が由莉を見るなり焦ったように近づくと肩を叩いているのをえりかは状況を上手く掴めずにいた。
「あなたは……?」
「私は阿久津と言います。目を覚ましたんですね……少し状況が掴めないと思いますが、由莉さんに何があったのか分かりますか?」
えりかは鬼気迫る様子のその人___阿久津という人に今まで起こった出来事を隠さず全てを話した。
「……とりあえず様子を見ましょう。命に別状はないみたいですし多分一時的なショックでしょう……それにしてもなぜ……」
「ゆりちゃん……」
二人はぐったりしている由莉を安静にすると目が覚めるまでそばにいようと決めたのだった。
_________
由莉が気絶してから目が覚めるまでにはさほどの時間はかからなかった。目が覚めると左には阿久津が右にはえりかの顔が焦点が定まっていなかったが見えた。
二人も由莉が目覚めて心の底からホッとしていた。
「由莉さん、大丈夫ですか?」
「ゆりちゃん、よかった……。」
由莉も二人を見て少し安心したが、それと同時に気絶する直前のあの記憶を思い出し、涙が零れた。
「阿久津さん……えりかちゃん……私……少し記憶が戻ったよ………っ。私は……私には……」
顔を涙で滲ませた由莉は震え声でその記憶の真実を二人に答えた。
_____名前がなかった、と
そう、最初からおかしかったんだ。
事実上、存在しない私が……お母さんから虐待をされていた私が、
どうして自分の名前を知っていたのか
自分で付けたわけでもなく、4年前から既に自分は「大羽由莉」だと分かっていた。
思い返してみれば、はっきりと記憶のある4年前からただの1回もお母さんから私の名前を呼ばれたことなんてなかった。……ただの1回も。いつも私を呼ぶ時はただ二文字、文字数は一緒なのに全く違う意味の、
___『ゴミ』
とそう呼ばれていた。恐らく以前もずっとそう言われていたんだと何となく分かった。
……そんな自分に名前をくれたのはあの子だった。いつの頃かは分からない。けど、間違いなく4年前より以前だった。私を「ゆーちゃん」と呼んでくれたあの子が……私の目の前で……………………死んだあの子が、
私に名前をくれたんだ……っ
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