由莉は無力さを恨みました
由莉は一度階段の前で立ち止まると一度肩の力を抜いた。すると、ようやく足の震えが止まった由莉は全速力で階段を駆け降りていった。転んで落ちるかもしれない、なんて考えてられない。そのくらいあの子を助けるための時間が欲しかった。
(きっとあの子も酷いことをされてきた……なのに、そんな子が近くにいるのにそのまま放っておくなんてこと……私には出来ない……!)
由莉は最後の階段6段分を一気に飛んで着地すると、阿久津の車が丁度その時横に止まっていたから転がり込むように助手席に飛び込んだ。
「はぁ……はぁ……っ、阿久津さん、狙撃場所の近くまで行ってほしいです……行かせてください!」
来るなり突拍子も無いことを言われ首を傾げる阿久津だったが由莉のあまりにも緊迫した様子にエンジンを吹かせすぎないように急いで車で向かった。
「とりあえず向かいますけど何があったんですか?」
「さっき白のワゴン車と通り過ぎた時、何か小さいボロボロのものが後ろのシートに乗っていたんです。それと同じものがその場所に止まっていて……それを運転していた人が今回の標的だったんですけど……恐らくその『なにか』は……子供です。私にはそのまま放って逃げるなんてそんな事、出来ません……っ!だからお願いします、阿久津さん。力を貸してください……!」
阿久津はこれだけ由莉が感情を剥き出しで必死になっている所を初めて見たような気がした。
「……本当に由莉さんは仕方がないですね。けど、そういうまっすぐな所、私は好きですよ」
「か、からかってる場合じゃ___」
「だからこそ、私もその熱意に答えたくなるものです。ワゴン車からその子を助ければいいんですね?」
「はい!……っ!?でも鍵は……閉まってる……!?」
由莉は完全に根本を間違えてしまった事に気がついた。鍵をどうやって開ける……?無理やり窓ガラス壊したら警報音が鳴って気づかれるからダメ。鍵もないからドアを開けるのも……無理……!じゃあ、どうすれば……っ!
由莉は自分の馬鹿さに涙目になりながら握り拳で太ももを何度も何度も殴った。なんでっ、そんな簡単なことをっ、気づかなかったの!
すると、運転しながら阿久津は由莉の頭を優しく撫でてあげた。
「えっ……?」
「由莉さん、私がこの世界で何年やってきたと思ってるんですか?車の開け方くらいで戸惑うほどやわに育ってはいませんよ。……由莉さんってどうしても一人で抱え込む癖がありますよね。頼りすぎるのは良くないですが、もし自分でどうしようもない事ができた時はぜひ頼ってください、その為の仲間ですよ」
迷っている時間なんて一秒たりともなかった。あの子を助けられるなら……それなら…………私でなくても……っ!
「阿久津さん……!お願いしても……いいですか?あの子を……助けてあげてください……っ!」
自分には___『その子』を助けることが出来ない、その技術や力が……ない。それが悔しくて悔しくて堪らなかった。目からも涙が溢れてきた。
そんな由莉の様子を見て阿久津はどこか、由莉がマスターに少し似ていると感じた。
あの時、マスターが由莉さんの為に涙を流した姿
今、由莉さんが『その子』の為に涙を流している姿
どことなく似ているのだ。主従関係とは違う……もっとなにか……。不思議に思いつつも阿久津はそろそろ着きそうであったから意識を切り替えた。
「任せてください。そのくらいの事すぐに終わらせてきましょう」
「……………………っ」
何も言うことがで来なかった。自分で言い出した事なのに自分で解決できず阿久津さんに頼ることになってしまった自分の無力さを恨んだ。私がもっと色んな事を知っていれば……あの子を車から連れ出す事くらいはできたはずなのに……
もっと___強くなりたい。
もっと……どんな状況でも対応できるくらい色んな知識が知りたい。銃の使い方を知りたい。格闘術を知りたい。……戦い方を知りたい。……確かに私はスナイパーだよ。遠くから敵を撃ち殺すのが私の役割。でも……
誰かを守るには……
誰かを助けるには……
誰かのそばにいるには……
_____それだけじゃだめなんだ。
由莉は新たに覚悟を決めた時には、車はその場へ着こうとしていた。
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