由莉は……人を撃ちました
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ある部屋の一角で二人の男は椅子に座って今後の『取引』について話していた。
〈おい、例のブツは連れてきたんだろうな?〉
〈今頃、下の車の中でおねんねしてるでしょう〉
〈そうか、久しぶりのガキだからな。この国で手に入れるのは難しい分、質だけはいいって人気だからな。もう少し何とかならんのか〉
〈無茶だ。今どき子供の誘拐なんてしたら目立っちまうからこっちだって慎重にならざるを得ないんだよ。必死に探し回ってようやく手に入れた代物なんだから文句は言わないでくれ〉
〈……そうか。これが今回のガキの代金だ〉
〈……あぁ、確かに受け取った〉
〈さて、今日はこのくらいにしてさっさと___〉
依頼主の男の記憶は引受人の後ろの壁が突然砕け散った所を見たのが最期となった____
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由莉によって放たれた銃弾は1200mの空間を引きちぎるように放物線を描きながら切り裂き、10m下方のただ一点に向かってぶれることなく音速の倍以上の速度で突っ込んでいった。
コンクリート壁に着弾した銃弾はぶつかった衝撃で半径1メートル近くのコンクリートを粉々に破壊した。
米粒大の大きさからビー玉の大きさまである無数のコンクリート片一つ一つに殺意が宿り、壁のすぐ側にいた敵一人を文字通り『跡形もなく消した』。
そして、コンクリートにぶつかった衝撃で50口径弾の持つエネルギーがかなり減少したが、それでもその先にいるもう一人の敵の土手っ腹にボーリングの球の大きさの風穴を開け、胃や腸などの臓物を地面に血とともにぶちまけた。
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由莉は引き金を引いた後も決してスコープから目を離すことなく着弾を待った。
__撃ってから着弾までおよそ1.6秒。だが、その僅かな時間は由莉には永遠と言っていいくらいに長く感じられた。
すると、半径1メートルくらいに渡って狙った場所を中心に大きく破壊されたのがスコープ越しにはっきりと見えた。
___うん、殺った
目標のその時の場所は見えなかったが、由莉には確信があった。急ぎつつも冷静に熱源感知スコープで目標がいた場所を確認すると、熱を発している物体が1つだけあった。何とか人間の形をしていたが中心に熱が感じられなかった事から腹部に着弾した事が分かった。あの弾をお腹に受けて生きてるなんて絶対にない……一人は確実にやった……あれ?もう1人はどこだろう……?
もう1人の姿を見つけられず、少し焦った由莉だったが腹部を貫かれた男が壁から離れた場所にいる事に気づいた由莉はもう一度普通のスコープでその場所をよく確認すると、瓦礫から血が滲んでいるのを見てもう1人の標的は跡形もなく吹き飛んだんだと結論づけた。
……これが、狙撃……これが人を殺すこと……
由莉は何故か体全体が信じられないくらい震えてた。手足は痙攣しているみたいだし、体の奥底もブルブルって震えてる……まさか……
私、興奮してるの……?
って、今はそんな事考えてる場合じゃない!早く片付けて逃げないと……
あの子も助けてあげないと___
由莉は急いで弾倉の中の弾を引っこ抜きバレットを分解しケースの中にしまい、持ってきた布と一緒に袋の中に入れた。
(撃ってから多分……2分も経ってない!早くしないと……!)
由莉はケースを肩に担ぐと、急いで階段を駆け降りようとしたが、足の震えが止まらなくてうまく走れない。
「もう!こんな時に、なんで……!」
由莉はかなりの苛立ちを覚えた。早く下まで行って阿久津さんに……ってそうだった!
「阿久津さんに連絡しなきゃ……!」
由莉は慣れないトランシーバーで阿久津に連絡を試みた。
『もしもし、あく……シューズさん!聞こえますか!』
『はい!聞こえてますよ!今からそっちへ行こうとしています。あと1分ほど待ってください』
『わかりました!あと……その後一つだけお願いいいですか?詳しい事は後で話すので!』
『は、はぁ……』
何やら困惑していたみたいだが由莉は気にしている場合ではなかった。
(1分……私でも全力で降りても間に合うか分からないよ……っ、私だけなら逃げられるかもしれないけど……あの子を助けてあげたいんだ……!絶対に!)
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