由莉と運命の前哨
由莉はそのケースに自分の銃を中にしまって、50口径の弾をいくつか中に入れるとしっかり蓋を閉じた。
「そうだ、由莉。行く時にこれを持っていきなさい」
そう言って手渡されたのは、先に円い筒__サプレッサーが刺さっている拳銃だった。この形には由莉も少し覚えがあった。
「これは……ルガー・マークⅢ……ですか?」
「護身用に、だ。いざと言う時に武器がなかったら危ないからな」
「ありがとうございます!」
それから由莉はマスターから拳銃を受け取ると由莉は試しにマスターから貰った弾箱からちっこい弾をささっと弾倉に詰め装填すると両手で構えワクワクしながら引き金を引いた。
ビスッ
まるでBB弾のような音しか聞こえなくて由莉はびっくりした。
……へ?こんな小さいの……!?調べたことはあったけど……すごい……!
「この銃は精度が高い上に殺傷能力も充分ある。使う必要はまず無いと思うが、もしもの為に持っておくといい」
「はいっ!」
由莉はセーフティを戻すと、どこに入れようか少し迷ったが、ギターケースの袋にそれを入れられるくらいの大きさの袋があったと思い出した由莉はそこにしまった。本当にこのケース便利だよ〜
「さて、そろそろだが……覚悟はいいか?」
「はい!いつでも行けます!」
由莉は、んしょっ、とケースを担ぎマスターの問いかけに元気に返事をすると二人で地下から出たのだった。
_________
外に出ると阿久津が車を用意して待っていた。どこにでもあるような外見の車だ。そして、その運転席には___
「阿久津さん……?」
「おはようございます、由莉さん。実は昨日もう一つ言おうと思ってたのですが、今日のサポートは私がやらせていただきます」
由莉は少し目が点になった。いや、嬉しいんだよ?阿久津さんが手伝ってくれるなんてすっごく心強い!けど……もしかして……
「嬉しいです!……昨日話さなかったのってもしかして……」
「ふふ、あんなことを言われたら私も言うタイミングが無くなってしまいました。かっこよかったですよ?」
「ふくぅぅ……っ」
由莉は少し顔を赤くした。ま、またからかわれた……けど、少しでも緊張を和らげようとしてくれたんだよね……そうだよね?
「阿久津、由莉をあんまりいじめてやるなよ?」
「分かってますよ、ほどほどにします」
「ひ、ひどいですよ阿久津さん〜!」
由莉は完全に阿久津が自分をからかうのを少しだけ楽しんでいるのだと今さら確信した瞬間だった。
______
「さて、では由莉さんそろそろ行きましょう」
阿久津は微笑むと由莉を助手席へと案内した。
由莉はケースを腕に抱えるとぶつけないようにゆっくり中へと入ると、そのまま阿久津と由莉は出発した
_____________
由莉はギターケースを腕でギュッと抱えながら無言で集中力を高めていた。初めてだからなのかいつも以上に腕に力が篭っていた。やるんだ……絶対にやるんだ……!
すると、それを見兼ねた阿久津は由莉に声をかけた。
「由莉さん、少し力みすぎてませんか?」
「っ!気づきませんでした……」
阿久津に指摘されようやく由莉も気がついた。妙に体が強ばってるし、力が入りすぎてるよ……由莉は一度深く息を吸いこみ体全体の力を一気に抜き、少しばかり移動する車の揺れに身を委ねた。
_______________
車で走ること数十分。目標地点まであと10分を切ったところで由莉は今まで聞けなかったある事を聞くことにした。どうしても知っておきたかったことがあったから___
「……阿久津さん、『初めて人を殺した』時ってどんな感じでしたか……?」
「…………」
阿久津は思わず黙り込んでしまった。まさか由莉の口からその言葉が出るとは思ってなかったんだろう。運転しながら少しだけ顔を険しくさせていたが、少し時間をおいて阿久津が少しずつ語り出した。
「由莉さん、私が紛争が絶えない地域にいたって言うのは知ってますよね」
「はい……」
「マスターに拾われてから2年ほどですかね……その頃には銃や格闘術にも慣れてマスターにも認められ始めた時、戦場へ行くことをマスターから言われたんです。由莉さんは実際に見たことはないかもしれませんが、あそこは『地獄』そのものでした。ろくに衛生管理も出来ていなく、手足を吹き飛ばされたりして負傷した兵士達のうめき声が鳴りやみませんし、死体の保管所なんて……血の臭いと肉の腐った臭いで何度も吐きそうになりました」
「……」
由莉は黙って聞くことしか出来なかった。想像してたよりも遥かに酷かった。
「そこで私も兵士として参加していました。初めて人を殺したのはその時です。敵が少し遠くに見えたので、そこに向かって銃を撃ったんです。敵の頭から赤い血煙が吹き出して倒れるのがはっきり見えました……。最初はすごい興奮状態で、罪悪感なんて感じられませんでしたけど……だんだん変な気分になるんですよ。胸がすごい苦しいと言うか……」
「そう……ですか…….」
(阿久津さんも……そうだったんだ……。私は……)
「由莉さんは……どう思ってますか?」
「……確かに少しは怖いかもしれません。けど、私がその目標を殺して誰かが救われるなら……躊躇いません」
由莉のまっすぐな答えに阿久津は少し笑うと由莉に一つだけ告げた。
「なら大丈夫です。何の心配もなく今回は上手くいくと思います。けど……何も罪のない人を殺す日がやってくる事もあるかもしれないって事は頭の片隅に入れておいて下さいね」
「……はい」
すると、ちょうど狙撃場所の近くに来たようでスピードが少し遅くなった。そして、対向車線から白いワゴン車が通るのを見かけた、その時……後ろでボロボロになっている『何か』を由莉は見たような気がした。少しばかり気がかりだったが今はそれどころじゃないと、記憶の端っこに押し込んで入るとその付近に来たようで車が止まった。由莉は扉を開けるとケースを背中に担ぎ直して車から降りた。
「では、由莉さん怪しまれるといけないので一旦離れます。もし変なことがあればすぐにこれを使ってください」
阿久津が渡してきたのは少し大きめな黒色の物体だった。
「トランシーバー……でしたっけ?」
「はい、使い方は分かりますか?」
「何となくは……はい」
「なら大丈夫ですね。あと最後に一つだけ、私をそれで呼ぶ時は『シューズ』と言ってもらえますか?名前を知られると厄介な時って実際あるので」
これは由莉も聞いたことがあった。そういう時はコードネームという自分の名前ではない名前で呼び合うのだと。由莉は自分も欲しいと少し思ったが時間が切迫していたので堪えた。
「はい!終わったら必ず連絡します!」
「では、由莉さん。そろそろ行きます……ご武運を。」
阿久津が怪しまれないように適度なスピードで走っていくと由莉は狙撃ポイントとなるビルを見上げた。
さぁ、やるよ。よろしくね、私のバレットM82A1!
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