由莉は贈り物を貰いました

 地下に降り立った由莉はスタスタと歩いていき、銃の保管してある場所へ向かうと自分の愛銃を取り出した。ずっしりと来る重さだったが、今の由莉にはその重ささえ愛おしいくらいに感じられた。



 由莉は白い布と共にバレットを持って保管庫を出るとその布を広げた上にバレットを乗せた。由莉はその子を膝の上に乗せ、優しく銃身を撫でた。



(今日は頑張ろうねっ、この子となら今日の狙撃は絶対に上手くいくよ!)



 由莉は一度深呼吸すると、バレットを分解し一つ一つの部品を丁寧に整備をし始めた。由莉が手を動かす度にバレットの部品が顕になっていく。この子の事なら何でも知ってる……どんな部品がどこにあるか全部知ってるよ。それでこそ、私はこの子の__相棒なんだ。



 時間を忘れて作業に夢中になっている由莉だったが全ての部品の整備が終わると再び組み立て始めた。流れるような手つきで、バラバラだった部品がみるみるうちにその姿を取り戻していった。



(よしっ、出来たよ!……ふふっ、本当にかっこいいなぁ……よしっ、念の為に確認っと)



 由莉は腹ばいになり両足をハの字に広げ組み終わったばかりのバレットを構えて伏射姿勢をとった。動きに違和感がないか確かめるために右手でコッキングレバーを引いてみる。最初の頃は全力で引いて何とか出来ていたが、今は割と力を抜いてでも引けるようになっていた。



(うん、問題なしっと)



 引ききってから由莉は手を離すとバネの力で勢いよく戻っていった。それから、由莉は引き金に人差し指をそっと伸ばし触れた。ある所まではすごく少ない力で引き金が引けるが、引き金が引かれる直前のある一点で急に重くなる。普通ならここで止めて時が来たら引き金を引くが、由莉はその領域に足を踏み入れても構わずに力を加え続けた。そして、あと数ミリで作動するってところで由莉はピタッと指の力を弱めた。



「ふぅ〜……………………んっ!」



 肺の中の空気を吐ききるとクッと息を止め、残りを引き絞った。



 ガチリ



 そんな金属音が聞こえた。由莉は引き金から指を離すとすごく満足そうに笑った。



「……うんっ!今日もいい調子っ」



 いつもと同じ事をしてるだけなのに今日は何故か一段と嬉しかった。……と、気づけばマスターが階段から降りようとしていたので由莉はマスターの元へ駆けた。



「マスター、おはようございます!」



「おはよう、由莉。今日は早かったな」



「はいっ、少し早く起きてしまったのであの子の整備をしていました!」



「そうか。それなら準備はかなり早くなりそうだな。それも由莉に任せようと考えていたところだったからな」



「そうですか……あれ?マスターそれって……」



 由莉はふとマスターの持っているケースに気がついた。これアニメで見たことある……ギターケースだよ!しかもそれを持ってきたという事は……



「この中に……あの子をしまうのですか?」



「あぁ、その通りだ。」



 由莉はその言葉に数秒間固まるしかなかった。ほ、本当にそうだったんだ……あっ、でもしまいきれるのかな……?あの子、私以上に大きいんだけどな〜……

 すると、由莉の疑問を察したかのようにマスターがその答えを由莉に述べた。



「バレットはこの中に二つに分解して持っていくからな。流石にそのまま入れると大きすぎるし何よりも目立つ」



「ですよね〜。それじゃあ、しまってきますね!」



 由莉はマスターからそのケースを渡されるとバレットの近くまで行き、パカッと蓋を開けた。



「えっ……!?これって……」



 中の精密さに由莉は目を奪われた。バレットは大きく2つに分けることが出来て、その二つが2つのピンで止められることで完成する。ケースの中の形状を見てその2つのパーツが余すところがなく綺麗にハマるように設計されているのが由莉は見ただけで分かった。すごい……すごいよ……!しかもこのギターケース……多分防弾性もあるよ?……こんなの、どこ探しても見つからない……!えっ、もしかして……!

 由莉は振り返ると震えた声でマスターに質問をした。



「マスター、これって……!」



 その由莉の反応を見てマスターはどこか嬉しそうに静かに頷いた。



「あぁ、由莉のために作ってもらったものだ。……受け取ってくれるか?」



「……っ!はいっ……!喜んで……!」



 ___嬉しかった。誰かに物を貰うなんて初めてだった。しかも、由莉が一番大好きなマスターから。由莉はギターケースを抱えながら涙を隠すように俯き、片手で口を抑えたが堪えきれず涙をポロポロとこぼしコンクリートの床に落ちていった。



「マスター、ありがとう……ございます……!大切にします!ううぅ……っ!」


 マスターは涙を流している由莉に近づいて頭を撫でた。由莉の純心さがマスターにはとても愛おしかった。そんな中、ふとマスターは自分の娘の歌鈴の笑顔も思い出したが、軽く首を振って考えを捨てた。この子はこの子だ。いくら歌鈴に雰囲気が似ているとは言え他人なのだから___



「……由莉、きっとこれから大変な道を進まないと行けない。苦しいこと、辛いこと、山のようにあるかもしれない。泣きたくなる事だってあるかもしれない。それでも……ついてきてくれるか?」


 このタイミングで言うのは虫が良すぎるかもしれない。だが、言うべきだとも思った。由莉はマスターにとって決して失いたくない大切な存在だったから。スナイパーとしての才能もそうだが、由莉の絶対に諦めないその心の強さ、心の真っ直ぐさに気がつけばマスターも惹かれていた。



 マスターの問いかけに由莉は両手で目を擦ると今自分に出せる精一杯の笑顔でマスターに笑ってみせた。



「はい……っ、どこまでも……マスターと一緒に……っ!」

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