由莉と運命の日の朝

 __早朝



 由莉は日も出ないうちに目が覚めた。昨日は日が沈んですぐに寝付いたし、よく眠れたから気持ちがよかった。部屋の明かりを着けると「んん〜っ!」と手を組みながら腕を上にあげて思いっきり背伸びした。



「よく寝たな〜……さて、お風呂入ろっと!」



 最近、由莉は早く起きる癖がついてから毎日お風呂に入るようにしてる。朝のお風呂の気持ちよさがすっかり気に入ったようだった。体の調子は少しでも良くしておきたいと最初は少しぬるめのお湯を張った。



「気持ちいいなぁ〜♪お風呂大好きだよ〜……本当に……」



 由莉は少しずつ熱いお湯を蛇口から出しながらその気持ちよさに浸っていた。そして、少しだけ昔の事を思い出していた。



 ___考えたくもなかったが、数年に渡る虐待は由莉の身体に今でも身体に焼き付いていた。今でも脇腹や背中には紫色の痣が残っている。



(前は……こうやって毎日お風呂なんて入れさせてもらえなかったな……前に無断で入って水道代……だっけ……が高くなったってお母さんにどやされて、めちゃくちゃに殴られて…………っ。だから……今がどれだけ幸せなのか分かるよ……普通に……普通じゃないと思うけど、ご飯が普通に食べられて、お風呂に入れて……)



 湯気が室内を満たしていく中、由莉は目を閉じながら天井に顔をむけると再び目を開けた。



 ___今日は……分かってる。私が本当のスナイパーになる日__人を殺す日。



 刻々と変化し続ける白と透明色のマーブル模様に由莉は思いを馳せながらもう少しだけゆっくりお風呂に浸かるのであった…………



 お風呂から出るとヒートショック現象

(急激な温度変化によって血圧が上昇する健康被害で最悪の場合、死亡する例もある)

 を防ぐために少しだけ温めておいた脱衣所に入りタオルで身体に付いた汗を残さず拭き取るといつものジャージをハンガーラックから取り出し、身にまとった。


 窓を見てみると、夜がだんだん開けているのが分かったが、未だにオレンジ色に染まる様子がなかった。



(あれ……?まだお日さま出てこない……?そんなに私起きるの早かったんだ……お風呂も入っちゃったし、部屋の片付けもしてあるから……そうだっ、少し早いけど地下の射撃場行こうかな)



 由莉はまだ慣れない目で暗い廊下に出ると懐中電灯を持って地下に入るための扉まで歩いていった。少し怖かったが、目も慣れて辺りが見えてくるとその気持ちもどこかへいってしまった。



(パスワードは……137949342940512367っと)



 扉をロックしているパスワードを迷うことのない手つきで解除すると重厚な扉が開きかなりの段数がある階段を1段飛ばしで降りていった。

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