由莉は心に尋ねました
阿久津と由莉が話している内に気がつけば日も暮れはじめているようで窓から射す光が白からオレンジ色へと変わっていた。
「さて、私はマスターの所へ向かいます。今日はもう休んでください。そして……明日、また元気な姿をマスターにも見せてあげてくださいね」
「はい!」
由莉のその元気な返事と愛くるしい笑顔を見て安心した阿久津はそっと立ち上がると、由莉の部屋から出ていった。
由莉はそれを見届けるとベッドに寝転がった。マスターと……阿久津さんと家族……いいなぁ……
その光景に少し思いを馳せた由莉だったが、少し首を横に振ってその考えを振り落とすと、自分の右手を天井に翳して眺めた。私は……
それでマスターの役に立ちたい……でも、なんで撃てなくなったんだろう……なんてね。今なら分かるよ。私は……怖くなった……あの子を撃つことが怖くなったんだ。ずっとずっと使っていた。ゲームでやっていた頃からずーっと私の相棒、体の一部みたいな存在だったのに……っ。こんなんじゃ……あの子の相棒失格だよね。
由莉は翳した手を握りしめ胸の前に置いた。そして自分がどうしたいのか心の中に尋ねた。
__どうしたい?
あの子を使いたい。マスターの役に立ちたい。
__なんで?
マスターは……私を拾ってくれた人、私の大切な人だから。マスターのためなら……私は……
__でも、怖い?
怖いよ……怖いけど……
__なんで撃てないの?
…………
何度も自問自答を繰り返したが答えは出なかった。思考の無限ループのせいで頭がガンガン響くように痛かった。
かなりの時間考えていたのだろうか、ドアをコンコンとノックする音が聞こえた。由莉は体をピクっとさせると無理やり笑顔を作った。阿久津さんにああ
言ったのに浮かない顔してちゃだめだ……!
「由莉さん、夕食持ってきました」
「あっ……入ってください!」
「失礼します。はい、食べてください」
「はい!いただきま〜す!」
由莉は阿久津が持ってきてくれた夕食をササッと食べてしまった。すっごく美味しかった、なのに心はスッキリしなかった。
「……?由莉さん、どうかしましたか?」
「い、いえ……何でもないです……」
阿久津には由莉がひどく悩んでいるように見えた。本人は隠そうと元気なフリをしているけど阿久津にはバレバレであった。
声をかけようか少し迷ったが、何でも人に頼らせることはよくないと考えた阿久津は敢えて何も聞かないことにした。
「そうですか……それでは、私もそろそろ行きますね。おやすみなさい、由莉さん」
「はいっ、おやすみなさい」
阿久津が部屋から出ていくと由莉はまた浮かない顔になってベットに寝転がった。おなかいっぱいになったからだろうか凄く眠い。
私……このままでいいのかな……ううん、いいわけがない……私は___
_______________
気づいたら由莉は真っ白な空間にいた。もう一人の由莉がうさぎを撃ち殺した時の風景と全く同じ場所だった。
「あれ……?寝ちゃったのかな……でも、なんでまた……」
〈やっほ〜、もう一人のわたし〉
「え……っ!?」
はっと後ろを振り返るとそこにいたのは___自分と全く同じ容姿、同じ声で不敵な笑みを浮かべているもう一人の由莉だった
由莉が自分自身の本当の答えを見つける為の最後の戦いが始まる___
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