由莉ともう一人の由莉-カコ-
本日2話目の更新です
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「あなたは……誰……なの?」
目の前に自分がいる、にわかには信じ難い光景だった。だが、茶色の綺麗な髪、琥珀色の瞳、小柄な身体、間違いなく由莉の容姿だった。
〈見ての通り私はあなただよ。それに、あなたは私でもあるんだよ〉
「あなたは私で……私は……あなた? うぅ……
もう訳が分からないよ……っ」
ますます混乱し、頭を抱える由莉を見てもう一人の由莉は少し笑うと由莉との距離を一歩だけ縮めた。
〈ねぇ、あなたはなんでマスターの所に来たの?〉
「っ!」
その言葉を聞いた瞬間に確信した。
―――この子は、間違いなく自分だ、自分の心なんだ……そして、これは……自分との対話なんだ。
「それは……スナイパーになるため。お母さんを……」
〈本当になれるの? お母さんを殺せるの?〉
「……なりたいし……殺したいよ」
〈うさぎ一匹殺すのも躊躇うあなたが人を殺せるの?〉
なんなの……
「それは……っ」
〈中途半端な覚悟じゃ何も出来ないよ?〉
なんなの……なんなの?
「……覚悟はしてる、よ。じゃなきゃ、こんな……」
〈へぇ……自分の前でも嘘をつくんだ? 嘘つき〉
なんなの……なんなの?なんなの!?
「っ、あなたは……一体なんなの!?」
由莉が睨みながら激昴している一方、もう一人の由莉はとても冷静だった。まるで、自分を見定めるかのようにその姿をしっかりと見据えていた。
〈私はあなただよ。私はあなたの事を何もかも知っているんだよ? 今、あなたが本当の事を言われて無理に強がって否定しようとしているのもね〉
「やめて……やめてよ……っ」
―――そんな言葉……聞きたくない……っ
耳を塞いで情報を遮断しようとする由莉。だが、そんなの無駄と言わんばかりにもう一人の由莉が由莉の後ろへ回り込み耳元へ囁いてきた。
〈そうやって、また逃げるんだ。……でも……仕方ないよね……〉
「えっ……?」
―――また……? またって、なに?
「私は……逃げてなんかない……逃げてなんか……」
〈それじゃあ、見てみる?あなたの記憶を―――〉
そう言ったもう一人の由莉は由莉に向かって手をかざす。すると……またあの光景が頭の中に流れ込んできた。
―――おびただしい量の血
―――目の前に倒れている少女
―――そばで一人怯えている……小さい頃の自分
―――少女の血に濡れた銀色の包丁
―――『ゆーちゃん……あなたは……生きて……ね』
―――嫌だ……死なないでよ……1人にしないで……
―――『ゆー……ちゃ……ん……』
―――ぇ……?ねぇ、起きて……起きてよ……いや……いやぁ……いやあああぁぁぁァァァーーー!!!
「ぐぅっ……!?はぁ、はぁ……はぁっ…………!なに、これ……。私こんなの知らない……分からないよ……っ」
―――間違いない……私をあそこから助け出してくれたあの子の声だ……。でも、あの子は……死んだ……? 昔の私の目の前で? 思い出せない……思い出したくても思い出せない……っ!
―――あの子は……誰なの?―――
―――夢の中なのに……汗が吹き出すようにまとわりつくし、呼吸のペースもなんだかおかしい……っ。
地面に四つん這いになって、過呼吸寸前の状態でもがき苦しんでいる由莉を、もう1人の由莉は少し哀しそうに、悔しそうにしながら眺めていた。
〈……ほらね、あなたは私自身の記憶から今もずっと逃げてるんだよ。……4年前のあの日からずっと〉
「……分からないよ……そんな事言われても……」
〈……そっか〉
もう一人の由莉はそれ以上話を掘り下げようとはして来なかった。
「…………」
〈…………〉
二人の間にはしばしの間、沈黙が貫いた。
それを破ったのは……もう一人の由莉だった。
〈ねぇ、あなたは、お母さんを殺したいんだよね?〉
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