由莉は帰ってきました

2章もいよいよ終わりに近づいています

由莉の最後に出す答えを楽しみにしていてください。それでは、どうぞ!


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「阿久津さん……あまり強くしないでください……痛いです……」



「あっ、すみません……つい……」



 若干慌てながら由莉からサッと離れる阿久津を見て由莉は少し微笑んだ。



「阿久津さん……ありがとう……ございます……!」



「……全部聞いてたんですね」



 由莉は縦に頷くと涙を拭き、自分が心の中でふさぎ込んでいた時のことを話した。そこにいた少女のことを除いて。話す必要がないと言うのもあったが……



「そう……ですか。マスターと私が言い争っていたのも聞いてたんですね……」



「はい……」



「……そうですか」



 阿久津は観念したようにため息をついた。



「まず、あんな口調でマスターに話しかける人がいたら即座に殺されます。……私も少し覚悟してたのですが、まぁこの通り生きてます」



「えっ……?」



 阿久津のとんでも発言に由莉は顔が真っ青になった。もしかしたら自分のせいで阿久津さんがマスターに殺されてたかもしれない……?



「どうしてそんな事までして……私を……」



「由莉さんに一目惚れしたからです」



「なるほど、ひとめぼ……れ?……ふぇっ!?」



 その意味をゆっくりと心の中で噛み砕いた由莉は一気に顔から火が吹き出しそうになった。え!?だって私まだ子供だし、阿久津さんは見るからに大人だし……マスターに会ったの11年前って言ってたし……あわわわ……もしかして……阿久津さんって……ロリコン!?いやっ、阿久津さんがロリコンな訳ない!ロリコンな訳が……あれ?前にもこうやって阿久津さんにからかわれたんだっけ……?ってことは……!



 由莉はジロっと阿久津の方を見ると笑いを堪えてるようにプルプル震えていた。阿久津さん……っ!



「からかわないでくださいっ!」



 由莉は顔を真っ赤にし、ほっぺたをぷーっと膨らませた。



「す、すみません……フフっ」



「むぅ……阿久津さん本当にいじわるですよね……ふふっ」



 由莉は思わず笑みがこぼれた。なんだか悪い気はしないからなのだろう。

 それを見た阿久津は由莉の頭にそっと手をやって撫でた。唐突なことで由莉も動揺して一瞬固まってしまったがすぐに飛び退いて阿久津の手が届かない所まで逃げていった。



「ま、またからかってるんですか……?そろそろ私も怒りますよっ……?気持ちよかったですけ

ど……」



「いいえ、これが理由ですよ」



 頭を撫でて私の顔を赤くさせるのが理由!?と思ったが阿久津は至ってまじめに言っているからそんなわけがないと思ったのはいいが何故なのか分からなかった。



「それってどういう……」



「また由莉さんの笑顔を見たかったからですよ。由莉さんはそうやっているのが1番です。」



「……っ。でもっ……私もうあの子を使えないかもしれない……何も出来ないかもしれないんですよ?私に価値なんて……」



「そんなこと言わないでください」



 阿久津は由莉の両肩をしっかり掴んだ。強引だけど、こうでもしないと由莉さんはきっとまた塞ぎこんでしまいそうだったから。



「どんな状態であれ、由莉さんは何事もなく戻ってきた。それでいいんです。マスターも今頃、由莉さんがどうなっているか不安でどうにかなってるんじゃないですかね」



「っ!?マスターが心配してるなら会いたいです!」



 由莉は阿久津を振り切ってでもマスターの元へ行こうとしたが肩をがっちりロックされて全く動けなかったからあえなく断念した。



「だめです。今日はこのまま寝てください。マスターも少し考える時間をあげないと……由莉さんのためにも。」



「でも……っ」



「それほどなのです。由莉さんがあんな状態になると私もマスターもどうにかなってしまいそうになるんです。もう由莉さんは家族みたいな物ですから」



「か……ぞく……?」



__家族。その言葉を聞いた瞬間なにか由莉の心を貫いた。辛い記憶ばかりが蘇る。暴言を吐かれた記憶、罵られた記憶、叩かれた記憶、殴られた記憶、蹴られた記憶、呼吸が出来なかった記憶、血を吐いた記憶……死にかけた記憶。由莉にとって家族とは嫌な思い出の塊でしかなかった。



「いや……いやっ……!」



 怖い。家族が怖い。あんな事をされるのが怖い。由莉はその記憶を振り払おうと頭をブンブンと横に振った。



「大丈夫です。そんなこと、私もマスターも絶対しませんよ」



「怖い……分かってるのに……怖い……っ!」



 マスターと阿久津さんがお母さんとは違うことくらいは分かってる……分かっているのに怖くて怖くて仕方がなかった。手の震えが止まらなかった。

 すると、震える自分の手を阿久津さんが握ってくれた。すごく温かくて安心できる大きな手だった。手の震えもすぐに止まった。



「家族っていうのはですね、悲しい時、嬉しい時、楽しい時、苦しい時を共有する物だと思うんです。そういう『家族のカタチ』もあるんですよ」



 嬉しかった。そんな家族の一員として認めてもらっているんだと思うと少し涙がでた。



「私は……なれるでしょうか」



 何が……なんてもはや野暮であった。阿久津は静かに頷いた。



「はい、きっとなれますよ。由莉さんなら」

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