由莉は暗闇に堕ちました

由莉はバレットの近くまで寄った。今日も変わらぬ綺麗なフォルムと荘厳さに由莉は少し嬉しくなった……が、同時に昨日の事も思い出してしまった。



(大丈夫……今日は普通の的だから……当てるだけだから……!)



そう言い聞かせながら由莉は撃つ準備を始めた。いつも通り箱から50口径の大きな弾を取り出し__そのタイミングでなぜか由莉は一瞬硬直し手から弾が転がっていってしまった。



(あ、あれ……?なんで落としたんだろ……こんな事今まで一度もなかったのに……)



不思議に思いつつも転がる弾を拾い弾倉に押しこむ。そのままコッキングレバーを思いっきり引っ張り弾を装填すると伏射姿勢になりスコープを覗いた。



(距離は……200。うん、問題なく当てられ__?うっ……また……っ!)



まただ。また昨日のあれがフラッシュバックし由莉は目を瞑って頭を払った。大丈夫……私はもう大丈夫だから……っ!



感情の揺れを押さえつけようと一度深呼吸する。そして、的のど真ん中に照準を合わせ一気に引き金を引こうと指を曲げようとした……だが……



__由莉は引き金が引けなかった。



「う……そ……?なんで……?」



もう1回落ち着いて引き金を引こうと試みたが……人差し指が引き金に触れた瞬間、力が吸い取られるように抜けていくのだ。だから、どれだけ力を入れようとしても撃つことが叶わなかった。なんで……?なんでなんでなんで!?



「……っ!」



由莉は背筋が凍りつくくらい怖くなった。マスターにこの事を知られたら……いくらマスターでも……がっかりされる……見捨て……られる……っ!?嫌だ……そんなの嫌だっ!

すると、由莉は気配を感じ機械人形のような挙動で後ろを振り返るとマスターが自分のそばまで来ていた。



「____」



マスターが何か声をかけているようだったが由莉の耳を覆うイヤーマフによってその声は遮断されていた。外せばいいのだが……今の由莉には最早そんなことを考える余裕すらなかった。



「____!」



えっ……なんて言ってるのマスター……?なんで……そんな悲しい顔をしているの……?……私、もういらなくなっちゃったよね……銃を撃てない……私なんて……この子を使えない私なんて……





もう必要ない……よね……





繋げていたものがなくなったボロボロの心はついに音を立てて崩壊し、意識は深い闇の底へと突き落とされて____その直前、由莉は出来る限りの力を尽くし……



「ま……す……__」



__意識が完全に絶たれた。

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