由莉は涙を流しました

「嫌だ……いやだ……!いやぁ……っ」



(ダメだ、もう黙って見てられん)



 涙を浮かべながら悲痛に叫んでいる由莉を見ていられなくなったマスターは由莉を起こすことにした。



「由莉、由莉!起きなさい」



「いや……い……っ!?マ……スター……?マスター……です……か?」



「あぁ、そうだ。仕事がひと段落ついたから食事を持ってきたんだが_____っと」



 由莉は自分でも訳が分からないまま気がつけばマスターに抱きついていた。何かに縋るように……何かからか助けて欲しいかのように。その手は……微かに震えていた。



「マスター……マスター……!」



「……よしよし……怖かったんだな。」



 マスターは由莉が抱きついていたことには少し驚きはしたが拒みはしなかった。そのままなんとか落ち着かせられないかと頭を撫でてあげた。女の子らしいサラサラの髪だった。自分の娘にだったらこんな風にやっているんだろうな、とマスターは撫でながら思った。



「っ!?」



 それはマスターからすれば何気ない行為のはずだった。

 けど由莉からすれば……その力強い手の温もりを……人の温もりを生まれて初めて経験したのだ。



(これが……人の温かさ……?とっても…………温かい……)



 自然と大粒の涙が由莉の目から次々に零れ落ちた。初めて誰かに自分を__大羽由莉という存在を見てもらえたという嬉しさが由莉の孤独でからっぽな心をいっぱいに満たしていった。



「由莉、大丈夫か?」




「私……っ誰かにこんなに優しくしてもらえたのが生まれて初めてで……嬉しくて……っ!」



「そうか……」



 マスターはそれ以上は話そうとはせずしっかり由莉を抱きしめてあげた。こういう事には不器用だったマスターにはこれくらいしかしてやれる事がなかった。



「マスター……ごめんなさい……!もう少し……もう少しだけこのまま……っ」



「あぁ……泣くだけ泣きなさい」



 由莉はそのままマスターの胸に顔を伏せたまま今まで我慢していた涙が全て溢れ出るように思いの限り泣きじゃくった。

 もう、いいんだ。我慢しなくて……いいんだ……そう思うと…………涙が止まらなかった。

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