由莉は過去を打ち明けるようです

 由莉はその後自分の過去についてマスターに説明をした。マスターになら自分の全てを打ち明けられる、そう思えた。



「私……ずっとお母さんに殴られたり蹴られたりしていたんです……帰ってくる度にそれも酷くなって……何回も息が出来なくなって……死ぬんじゃないかって怖かったんです……食べ物も今では自分でなんとかネットでお金を貯めて、通販を使っているんですけど、はじめの頃はほとんど貰えなくて本当に…………?」



 由莉はある所で話がふと途切れ自分の数年前のことを頭に巡らせると変な違和感があった。



(あれ……?確かにお腹は空いていることは多かった……でも、死んじゃいそうなくらいお腹空いてたことが……ない……?)



 何かおかしい……そう少しだけ思ったが気のせいだと頭をふって話を続けた。私の記憶違い……だったのかな……?ううん、後で考えよう。



「……そんな生活が続いてました。けど、そんな苦しみも辛さもゲームをしている時だけは忘れていられました。そんな頃に私が出会ったのがFPSゲームなんです。初めて銃声を聞いた時、衝撃と共に快感が私の中に伝わってきたんです。夢中になりました。ゲームの中で銃でたくさん人を殺すのが、こんな自分でも敵を倒すことが出来るんだって。そうやって数ヶ月した後くらいですかね……出会ったんです。あの銃に……あの子に。かっこいいボディにすごい破壊力を持ったM82A1に出会った瞬間一目惚れしました。その銃を使って敵を殺しまくっているうちに……自分の本当の思いに気がついたんです。私は……お母さんを殺したい。殺したくて殺したくてたまらない……けど、そんな事なんて出来るわけない。その前に私がお母さんに殺される……そう諦めていたんです。」



 由莉の話を聞きマスターも納得した。由莉がどうして母親に復讐したいのか。なぜその銃に固執するのかを____



「辛かったろうに……そんな生活をして……」



「……確かに私の今までの人生は不幸せでした。でも」



 由莉は立ち上がると窓の側まで歩いていった。月光が綺麗に照っている夜空がそこには広がっていた。そして、そのままマスターの方へふり返った。



「今、こうやってマスターとあの子に出会えた事は幸せですねっ」



 とても可愛らしい笑顔を浮かべている由莉は月の光に照らされているのも相まってまるで月夜に降り立った天使のようだった。そんな由莉に少し見蕩れていたマスターはハッとするとここに来た目的をすっかり忘れてる所だった。



「___っと、そうだった。由莉、夕食を持ってきたから暖かい内に食べなさい。」



 由莉は机の方を見るとそこには、味噌汁にご飯、サラダ、唐揚げとしっかりとしたものであった。由莉は見た瞬間に息を飲んだ。間違いないよ……これ誰かが私のために作ってくれた料理だ……

 その瞬間、由莉のお腹がきゅーーっと情けない音を発した。マスターに聞かれたんじゃないかと由莉は少し顔を赤らめたが、恥ずかしさよりも食欲が優っていたので、そのまま椅子に座った。



「いただきます」と手を合わせると、箸で唐揚げを一つつまむと思いっきって一口で頬張った。少し冷めてしまっていたが、外はカリカリとしていて、中から柔らかい鶏むね肉の美味しさが口のなかに広がる。美味しくて自然と笑みが浮かんだ。すると、唐突に頬がキュッと痛み思わず由莉は目を閉じた。

 そう、誰もが一度は体験した事のあるだろう、美味しいものを食べる時に起こるあの痛みだ。

 すぐに痛みがおさまると由莉は夢中になって食べた。味噌汁は飲んでてすごくほっこりするような優しい味で、サラダもドレッシングが野菜と程よく噛み合いいくらでも食べれそうであった。どれもとても美味しくて____由莉は涙を目に浮かべながら食べていた。あぁ……これが手料理なんだ……こんなにも……心も身体もあったかくなるんだ……



 お腹が空いていた由莉は女の子が食べる分には少し多かった量をペロリと食べてしまった。



「ふぅ……ごちそうさまでした〜マスター、すっごく美味しかったです!」



「それは良かった。きっと阿久津も喜ぶだろうな」



「あ…くつ……さん?あっ、もしかして……」



「そうだ。由莉をここまで連れてきてくれた人だ。あいつは料理が上手いからな。」



「そう……なんですね……明日会ったらお礼言わなく……ちゃ……ふぁぁ……すみません……少し眠くなっちゃいました……。」



「おっと、そうだったな。急に起こしてしまったしな。よし、そろそろ私は部屋を出るとしよう。」



 由莉が食べた後の食器を持つと部屋から出ていこうとマスターがドアノブに手をかけた、その時、



「あっ、マスター……あのっ」



 マスターが振り向くと由莉が何か言いたげに少しもじもじしていた。こんな事言うの恥ずかしい……けど、言いたい。私を最初に見てくれたマスターに……



 大好きなマスターに……。



「どうしたんだ?」



「……す、すごく……嬉しかったです。マスターと会えて……」



「……それは私もだ。それじゃおやすみ、由莉」



「おやすみなさい……マスター……」



 マスターが部屋から出ていくのを見届けた由莉はそのまま再び深い眠りについた。その寝顔は___先程までとは違いとても安らかであった。









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