🍶越乃寒梅くんはめげない
「僕とデートしてください!」
「……」
キラッキラの笑顔を振り撒きながら越乃寒梅くんが赤い薔薇を掲げる。チャラい。
初めのうちこそ、魔王さんはそっけないながらもきちんと返事を返していた。けれどもそんな遣り取りにもうんざりしたようで、今は薄く微笑んで越乃寒梅くんに視線を向けている。どうやら越乃寒梅くんを見ているのではないようだけれども。
ごくり。
魔王さんの視線が越乃寒梅くんを通り越し、壁に貼られた『魔王降臨!!』に注がれているのを見て、森伊蔵さんの喉が鳴る。
魔王さんは上品で控え目だ。
けれど一度だけ、森伊蔵さんは魔王さんがキレたのを見たことがある。
「あー。越乃寒梅くん」
魔王さんがキレると鎮めるのが大変なので、森伊蔵さんは話題を変えようと試みた。
「今年もお花見に行くのかな」
確か去年は今頃からお花見お花見騒いでいた筈である。
「お花見!」
果たして簡単に食い付いた。ちょろい。
「魔王さんは、水仙と菜の花と梅と桜だったらどれが好き?」
見えないしっぽをぶんぶん振って、越乃寒梅くんが訊ねる。
「そうですねえ。水仙でしょうか」
邪気の無い問い掛けなので魔王さんも簡単に答えた。
「よっし。じゃあ伊蔵さん、来週お花見ね!」
真っ白い歯を見せて越乃寒梅くんは平場へ下りていった。
「ねえねえ黄桜ちゃん。菜の花と……」
来週とはまた急な。でも確かに水仙ならばのんびりしてもいられまい。
「伊蔵さま。お花見って?」
魔王さんが首を傾げる。
「去年は桜を見に行ったんですよ。今年は水仙のようですね」
越乃寒梅くんのあの様子では、今年は一回だけではないかもしれない。
「楽しいですよ」
森伊蔵さんはにっこりと笑った。
「今年は宇佐美どのもご一緒しましょうね」
魔王さん越し、宇佐美にも声を掛ける。
「楽しみですねえ」
黄桜ちゃんに続いて月桂冠ちゃんにも声を掛けている越乃寒梅くんを見下ろして、森伊蔵さんは番茶を啜った。
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