💓森伊蔵さんの告白

「え……はい?」


 突然謝られて宇佐美はちょっとぽかんとしてしまった。鬱々と悩むことに耐えきれなくなって、もういっそ森伊蔵さんに聞いてみようと決意したその矢先。


「黙っていればバレないんじゃないかと小狡いことを考えてしまって。いやはやお恥ずかしい」


 ふにゃっと森伊蔵さんが笑う。ちょっと前なら考えられないような表情だ。


「つい好奇心に負けて見てしまいました。ごめんなさい」


 ああやっぱり。

 宇佐美の希望的観測はやはり希望的観測でしかなかった。


「それにしても、どうして分かったんです? きちんと元通りに置いておいたつもりだったんですが」


「三ミリずれてました」


「三ミリ……」


 森伊蔵さんは目を瞠り、そしてまたくしゃりと笑う。


「敵いませんねえ。何とも宇佐美どのらしい」


「それで」


「はい?」


「どう思われました? 本を見て」


 宇佐美は澄ました顔をしているが、内心、心臓がひっくり返りそうなほど緊張している。答えを聞くのが怖い。でも、分からないのはもっと怖いのだ。


「正直驚きました」


 宇佐美の心を知ってか知らずか、森伊蔵さんはあっけらかんと答える。


「宇佐美どのは夏目漱石とか読むんだろうと勝手に思い込んでまして」


 いやー、あっはっは。覗き見がバレて開き直った森伊蔵さんは能天気だ。


「先入観はいけませんねえ。あ、そうだ。あれってやっぱりだっちゃんなんですか?」


 宇佐美は躊躇ったものの頷いた。


「おお。だっちゃんすごいんですねえ」


 可愛いだけじゃなかった! 森伊蔵さんは頻りに感心している。


「あの。伊蔵さん」


「はい」


「どうして今まで黙ってたんですか?」


「あー。覗き見でしたし」


 頭を掻きながら森伊蔵さんが笑う。


「それに何か、お二人とも内緒にしてるみたいだったので」


 いいひと!!


 宇佐美のなかで、森伊蔵さんの株がちょっぴり上がった。

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