🌀台風一過

 なんでもとても大事な仕事があるとかで。

 夏の終わりの嵐は人々の心を掻き乱してあっさりと去っていった。


 よくよく聞けば、長居が出来ないのではなくてそもそも寄り道をする時間など無かったそうで。

 それを押しての強行軍。よっぽど宇佐美が好きなのかと思いきや。


「伊佐美くんは、身内全員にあんな感じです」


 いつもの調子を取り戻しすっと背を伸ばして座る宇佐美が、いつもの調子で淡々と語る。とは言え耳が少ぉし赤いのは、やっぱりちょっと恥ずかしかったからだろうか。


「好い人ですし優秀ですし、とても尊敬しているんです。でも、時も場も弁えずにあんな調子で。なまじ出来の良い人なのでこちらも居たたまれなくて」


 はああっと。宇佐美は溜め息を吐く。だけど僅かに頬が赤いのは、大好きな従兄に久し振りに会えたからなのだろう。

 森伊蔵さんはにこにこと頷いて話を聞いている。


「ちょっと極端ですけど変な人ではないんです。どうか誤解しないでやってください」


 宇佐美がぺこりと頭を下げる。森伊蔵さんはぱたぱたと顔の前で手を振った。


「同郷ですし同じ芋焼酎ですし、伊佐美どののことは存じておりました。お会いするのは初めてで確かに少々驚きましたが、悪い印象は無いですよ?」


 本心である。

 家族っていいなあ、と。森伊蔵さんは思う。なんだか久し振りに懐かしい顔に会いたい気分だ。


「今度一緒に帰省かえりましょうか」


 自然に言葉が転げ出た。


「私も九州なんですよ」


 暖かい潮風の渡る海岸が。ちょっと恋しくなった。

 

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