🍶従兄弟

 一通り挨拶が終わると伊佐美どのはくるりと振り向いた。


「久し振りだね、宇佐美くん!」


 がばっ! と。

 笑顔全開の伊佐美どのが腕を広げると、宇佐美がびくりと震える。


「そうですね。久し振りですね、伊佐美くん」


 伊佐美どのに笑い返す宇佐美の頬は引き攣っている。そのうえじりじりと後退して、まるで伊佐美どのから逃げたがっているようだ。


「会いたかったよー!!」


 けれどそんな様には気づかぬように、伊佐美どのは宇佐美に突進した。あんな巨体にあんな勢いで迫られたら、大して広くもない店内に逃げ場は無い。


「うわあ!」


 がばーっと抱きつかれた宇佐美が悲鳴を上げる。


「会いたかったよー。たまには九州に帰ってこいよう」


 ぼろぼろと涙を流しながら宇佐美に頬擦りする伊佐美どの。大柄な従兄にがっちりホールドされて、宇佐美はされるがままだ。


「本当に久し振り! 会えて嬉しい!! 嬉しいよー、宇佐美くん!」


 伊佐美どのの涙は止まることがなく、宇佐美にしがみついておいおいと泣き続ける。


 正直引く。

 さっきまでの暑苦しいけれど礼儀正しい薩摩隼人は何処へ行ったのか。森伊蔵さんはあっけにとられつつ二人を眺めた。弱りきった宇佐美の様子を見て、この間の葉書のことといい宇佐美は従兄殿が嫌いなのかとちょっと心配になる。だって、どう見ても伊佐美どのは宇佐美が大好きなのだ。泣くほどに。


 宇佐美が抱きすくめられたまま溜め息を吐いた。長い長い溜め息だ。


「まったく」


 溜め息と共に吐き出された宇佐美の声音は、言葉の割には優しいものだった。森伊蔵さんは詰めていた息を吐く。


「いい歳をして恥ずかしくないんですか。みんな呆れてますよ」


「だってさー」


 ぐずぐずと洟を啜る伊佐美さんの背をぽんぽんと撫でて宇佐美は笑った。先程の引き攣ったそれではなくて心からの笑みだ。


「私も会いたかったですよ。でも」


 困ったように周りを見回す。


「この挨拶は恥ずかしいから止めましょう、って。いつも言ってるじゃないですか」


「だってー」


 ぎゅううっっと。伊佐美どのが宇佐美を抱きしめる。


「だから!」


 宇佐美が情けない声を上げて。店は笑いに包まれた。

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