🍶伊佐美どの

 黒いな。


 それが森伊蔵さんの率直な感想だった。

 宇佐美の従兄、伊佐美どのだ。

 ビールの二人も黒かったが、伊佐美どのはそれに輪をかけて黒い。髪も目も黒いからますます黒い。そしてチャラさの欠片もないので威圧感がすごい。


「いつも宇佐美がお世話になっております。こちら気持ちばかりですが」


 そう言う口元にきらりと覗く白い歯は、差し出すかるかん饅頭に負けないくらい眩しく輝いていた。大柄な伊佐美どのの大きな声は腹に響く。多分普通に喋っているだけなのに、何故か語尾にわっはっはって聞こえる。気がする。笑い皺の寄った目元の所為だろうか。


 まるで静と動のように様子が違うけれど、きちんとしているところは宇佐美にそっくりで。だから森伊蔵さんは伊佐美どのを好ましいと思った。ちょっと暑苦しいけれど。宇佐美が向ける視線から、彼も従兄を好いているのだと分かる。


 じゃあ何故。

 宇佐美は溜め息を吐くほど困っていたのか。


 握手する手をぶんぶんと振られながら、森伊蔵さんは今日も首を捻るのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る