✏️葉書

 はああ、と。

 大きく溜め息を吐く宇佐美を森伊蔵さんが覗き込む。


「どうされました?」


 思えばこの一年で森伊蔵さんは随分変わった。無関心を絵に描いたような男であったのにいつの間にか親しく話す友人が出来、こうやって他人の様子が気になるようになった。今でも人付き合いは得意ではないが、独りで居るのは寂しいと思う程度には人恋しさを覚えた。それは好い変化なのだろうと森伊蔵さんは思う。些か面倒で騒々しい毎日ではあるのだが。


 溜め息を吐く宇佐美の手元を見ると葉書が握られていた。力強い筆致で宇佐美の名が記されている。


「悪い知らせでも?」


 森伊蔵さんはちょっと心配になって尋ねた。いつも超然としている宇佐美がこのようにあからさまに嘆くのだから、余程のことに違いない。


「ああ。いえ……」


 森伊蔵さんの視線に気づいた宇佐美はばつが悪そうに眉を垂れた。


「大したことではないのです。それに、どちらかと言えば好い知らせです」


 宇佐美は笑って葉書を森伊蔵さんの方に差し出す。


「従兄が遊びに来るそうで」


 なるほど葉書にはその旨綴られている。時候の挨拶から始まる丁寧な文面と力強い筆致から宇佐美の従兄殿の人柄も伺えた。


「それは楽しみですね」


 森伊蔵さんは微笑みながら葉書を返すが、宇佐美の表情はやはり優れない。


「ええまあ。それはそうなんですけどね」


 珍しく歯切れの悪い宇佐美に、森伊蔵さんは首を捻るのだった。

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