🌟魔法少女

 あ。


 森伊蔵さんは、ふと視線を上げた先に一冊の文庫本を認めて眉尻を下げた。


 珍しい。


 宇佐美の席である。

 いつもきちんとしている宇佐美が物を出しっ放し置きっ放しにすることは無い。


 一体どうしたことだろう。


 森伊蔵さんは首を捻る。きょろきょろと視線を巡らせると、平台の端っこに気配を殺して座す宇佐美の姿を見つけた。


 あんなところで何してるんだ?


 森伊蔵さんは首を捻る。じっと座る宇佐美の視線の先には、獺祭(だっちゃん)を抱いた黄桜ちゃん。よくよく見れば宇佐美の頬がうっすら赤い。


 え? 黄桜ちゃん?


 森伊蔵さんは首を捻る。これまで宇佐美が黄桜ちゃんを見て頬を染めていたことがあっただろうか。いや。無い。


 ええー。何でー?


 首を捻った森伊蔵さんの目に、手にした文庫本の表紙が飛び込んできた。


『魔法少女きゅるるん☆お掃除しちゃうぞ♡』



 うえええぇぇぇっっ!?



 星とハートで飾られた表紙のなかから、金髪ツインテールの魔法少女(多分)が微妙にえっちなポーズで手招きしている。


 森伊蔵さんはあまりの衝撃に思わず表紙を二度見した。宇佐美はきっと夏目漱石とかを読んでいるのだと思っていたのに、まさかの魔法少女。しかもこの魔法少女、黄桜ちゃんに瓜二つ。


 そして森伊蔵さんはもうひとつ見つけてしまった。

 ぺらりと捲った表紙裏に、ペッタンと捺された肉球の拓。


『魔法少女きゅるるん☆お掃除しちゃうぞ♡』

 作者 DA☆TSU


 だつ!?


 嘘でしょう? いやまさか。


 だっちゃんを抱いた黄桜ちゃんと、宇佐美。そして手元の文庫本。

 森伊蔵さんの視線は、その三点を行ったり来たり。ぐるんぐるんと廻るばかりなのであった。

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