🍸季の美さん
約束が違う。
だあれも約束なんかしていないのだが、森伊蔵さんは気絶しそうになる意識を保つため、念仏のように唱え続けた。
約束が違う約束が違う約束が違う約束が違う約束が違う約束が違う約束が違う約束が違う約束が違う約束が違う約束が違う約束が……。
陽が落ちると途端に冷え込み、世のサラリーマンたちが背を丸め、赤い提灯の前で立ち止まる。ビールよりも熱燗が恋しくなる季節。
また新顔がやって来た。
洋モノのくせに、と笑い飛ばしたい。
ちょっと場違いだから引っ込んでなさいよ、と言ってやりたい。
なのに! 何故か漂う和の佇まい。嫋やかで物静かでありながら、芯の強さが窺える。そしてハイカラで垢抜けている。
礼儀正しく菓子折を差し出す仕種にケチをつける隙はない。
季の美さんが京都からやって来た。
認めたくはないが大層な男前だ。何でもイギリスの血がちょっぴり混じっているらしい。
森伊蔵さんは今にも倒れそうな己を必死で鼓舞した。大好きな月桂冠ちゃんの前で醜態は晒せない。つい先日だっちゃんと月桂冠ちゃんのあまりの愛らしさに鼻血を吹いて倒れた記憶は、もちろん抹消済みだ。
でも。
先ほど黄桜ちゃんから聞かされた新事実の衝撃を、森伊蔵さんは受け止めきれない。
季の美さんは月桂冠ちゃんの許嫁なんだって。
嘘だって言って!!
森伊蔵さんはもう、虫の息。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます