🍶🍶宴会🍶🍶

 それで、どうして森伊蔵さんが怒っているのかというと。


 いつの間にか盛大な宴会になっていたのだ。


 普段は壁際の棚に整然と並べられている皆が、どういう訳か小上がりのテーブルの上に乱雑に置かれ、話したこともないような者たちが次々と森伊蔵さんに構ってくるのである。


 それも仕方がない。

 だってみんな興味津々なんだもの。

 カタブツの森伊蔵さんの恋模様。


 もう散々質問攻めにされて森伊蔵さんはうんざりしている。

 森伊蔵さんは質問に対して「ああ」とか「さあ」とか「いや」とか、二文字しか言葉を返さないのに、何が面白いのだろうか。


 森伊蔵さんは元来一人でじっと座っていたい性分なのである。ただ、不愛想ではあるが偏屈な訳ではない。だからひとが寄って来れば対応する。

 しかし好きでもなければ得意でもないので疲れるのだ。


 だからと言って森伊蔵さんはそんなことで怒ったりはしない。

 何が面白いのかは分からないが、みんな嬉しそうなのでまあいいか、と森伊蔵さんは思っている。


 ただ、やたら鼻につく男が一人いるのだ。


「ねえねえ月桂冠ちゃん。今度デートしようよ」


 浮かれ気分の宴会のなかでも一際テンションの高いあの男。

 そう。越乃寒梅くん。


 森伊蔵さんは彼のノリがちょっと嫌いだ。


「あ。黄桜ちゃんも一緒に行く?」


 デートに誘うのに他の女も同伴させようというのか。なんだそれ。


 ぴくりと眉を震わせて森伊蔵さんは越乃寒梅くんを睨んだ。


「あ。伊蔵さんも一緒に行く?」


 チャラい。チャラすぎる。

 森伊蔵さんは怒っている。

 恋とは、もっとこう、誠実であらねばならない。


「誰が貴様なんかと」


 森伊蔵さんはさっきよりも凄みをきかせて越乃寒梅くんを睨んだ。


「えー。行こうよぅ」


 越乃寒梅くんは読みたい空気しか読まない。


 森伊蔵さんの怒りは空回りするばかりなのである。

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