🍶月桂冠ちゃん

 月桂冠ちゃんは困っていた。

 何故だか、店で人気を二分しているような二人に気に入られてしまったみたいなのだ。


 月桂冠ちゃんは決して男を手玉に取って楽しめるような性分ではない。

 店の看板娘的な。可愛くて愛想は好いが、まだ恋は知らないおぼこい娘さんなのである。


 チャラい越乃寒梅くんだけなら冗談だろうと受け流すことも出来た。けれども、あの森伊蔵さんが。

 越乃寒梅くんみたいに事ある毎に好き好き言われるのも困るが、何だか妙に座った目でじっと見つめる森伊蔵さんの態度はもっと困る。


 そもそも本当に森伊蔵さんに好かれているのだろうか、と月桂冠ちゃんは疑問に思う。

 相手を射殺してしまいそうなあの眼光。果たしてあれが恋する男のそれだろうか?


 もしかして、好かれてるんじゃなくて嫌われているんじゃあ。


 月桂冠ちゃんは困っている。


 だってほら。

 今だって、森伊蔵さんがじーっとこちらを睨んでいるのだ。


 勇気を出してにこりと微笑み返してみた。

 途端に真っ赤になった森伊蔵さんが、怒ったような顔でそっぽを向く。


 うわぁ……


 月桂冠ちゃんは困っている。

 どちらか選べないからではない。


 月桂冠ちゃんはまだ恋を知らない。

 出来ればお二人とも。

 お引き取り願いたいのだ。

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