🍶越乃寒梅くん

 ところがどっこい。

 月桂冠ちゃんに目を付けたのは森伊蔵さんだけではなかった。

 森伊蔵さんと同じ高みから。というか、森伊蔵さんの隣で。そいつはにやりと笑ってのたまったのだ。


「今日も可愛いなあ。月桂冠ちゃん」


 越乃寒梅くんは悪い奴ではない。

 人あたりが好くて偉ぶったところがないので皆に好かれている。


 だが、チャラい。


 あまりにチャラすぎて一時は皆から見放されかけたほどだ。


 越乃寒梅くんのすごいところは、それでも信念ポリシーを曲げなかったところだと思う。

 ひたすらチャラく。ご陽気に。キャッキャウフフと皆に絡み続け、ついにはそのキャラを受け入れさせてしまった。


 まあ。森伊蔵さんとは対極にあるような男なのである。



     🍶



「おーい。月桂冠ちゃーん❤」


 越乃寒梅くんが下に向かって手を振る。びくっと肩を震わせて、月桂冠ちゃんがこちらを仰ぐ。


 ずきゅきゅきゅぅぅぅんん。


 初めて月桂冠ちゃんの顔を真面まともに見た森伊蔵さんは仰け反らんばかりに動揺した。


 か……かわっ……


 鼻血でも垂らしそうな森伊蔵さんとは対照的に、越乃寒梅くんは安定的にチャラい。


「今日も可愛いねー。そっち行ってもいーい?」


「えっ。あのっ……」


 はっ。


 森伊蔵さんの庇護欲が俄かに湧き上がる。


「止めんか。困っているではないか」


 キッと隣の男を睨んだが、悲しいかな越乃寒梅くんはチャラい。そして、読みたくない空気は読まない。


「あれ? 伊蔵さんも月桂冠ちゃん好きなの?」


 瞳を輝かせて。

 何か、嫌な予感がする。

 森伊蔵さんは何だか分からないが越乃寒梅くんを止めなければと思った。


「や……」

「月桂冠ちゃーん! 伊蔵さんも月桂冠ちゃんのこと好きだってー」


「えっ。えええぇぇっ」


 月桂冠ちゃんが真っ赤になる。


 やめてぇぇぇぇっ。


 森伊蔵さんは両手で顔を覆ったが。

 残念。

 後の祭りなのであった。

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