その四十七 あなたは何者だ?

 「まあ、そんな気がしただけ。それより、問題は、カウルよ。あの世間知らずの坊やを婿養子に出してもらうわよ」と、少しだけばつの悪そうな沙羅。


 どうやって? どうせ、ノープランでしょ。僕は、心の中でそう思うしかなかった。カウルが婿養子になることを承諾するはずない。


 ルゥちゃん情報によると、ジュリアは、王国内きっての軍事派閥ロマノフェレン子爵の正妻の一人娘。側室二人との間にそれぞれ腹違いの幼い弟が二人いるが、誰が爵位を継ぐのか決まっていないらしい。ジュリアが、ランドワール伯爵に嫁げば、弟の一人が爵位を継ぐことになるものの、領内には反対意見も多いとのこと。


 反対派の筆頭はもちろんジュリアの母だが、それにも対抗勢力がある。貴族らしい内輪揉めだ。側室の一人に影響力を持つランドワール家としては、子爵夫人派の勢力を抑えたい思惑もある。


 一方、カウルがジュリアの婿養子としてロマノフェレン家の跡継ぎになるのも、子爵家の内紛を防ぐなかなかの妙案らしい。って、本当に、政略だけで結婚相手を決められちゃう世界なんだ。




 僕たちは、そのまま伯爵の城に滞在することになった。沙羅は軟禁状態だと言うが、ある程度自由に城の中を歩くことも許された。


 オシリスの僕たちへの監視の目以上に厳しいのは、沙羅による僕の監視だった。常時、沙羅は僕を目の届く範囲に置きたがった。過保護だと僕は思う。もちろん、カウルと二人で会うことなんて出来ない。必然的にレイとルゥちゃんも一緒について歩く。


 一方、シャルマは自由に、伯爵の居室まで一人で出入りしていた。珍しいお菓子をもらって帰ってレイにおすそ分けをくれることも多い。



 ある時、僕たちはオシリスに呼び止められた。


 「女。エスターシャ嬢を借りるが、よいか?」


 オシリスは沙羅に向かってそう言った。


 「どうぞ」


 沙羅は即答した。思いもよらない反応だ。




 「あの女には話をつけてある。交換条件としてな」


 一室で赤いローブを着た大男のオシリスと二人きりになる展開に驚いたままの僕に、彼は言った。


 「人払いの結界を張った。言葉が漏れることもない。あの犬耳使い魔にも」


 「どうして、こんなことをするの?」


 「一つだけ確認したいことがある。“あなた”は、何者だ?」


 とオシリスは、険しい表情を崩さないまま。立ち塞がるように僕を冷たい目で見下ろしている。


 「ぼ、僕のこと?」


 「キョウ=エスターシャ=ノヴァレンコア、本当に私を覚えていないのか? 攻撃を受け、一族の拠点は全滅。当の本人一人が生き残ったと聞く。最強の破壊者にして暗殺者一族の王よ。何故、こんな辺境に現れた? 拠点を攻撃したのは我らではないことを知っていよう」


 え? どういうこと? オシリスと僕が知り合いだったってこと? 本当、僕って何者なの? 暗殺者って、人を殺してたってこと? そして、攻撃を受けたの? シャルマは、事故だって言ってたのに。オシリスが冗談で言っているはずないことだけは分かるけど……

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