その四十三 エルフ

 「どういう事か説明してもらうわよ! うちのキョウに手出しは許さない! 勝手に連れ出して、寄ってたかってどんな酷い事をしたの?」と、沙羅は臨戦態勢。


 「何か妙な事を期待されているようだが、まだ、指一本触れてないぞ。私は」


 白々しく落ち着きはらった態度も堂々としている伯爵。


 「無理やり連れ出したのは俺だ。でも、こんなはずじゃ……」


 カウルは目を伏せてそう言った。


 「お坊ちゃん。その子はエルフよ。人間の男が気軽に相手出来るはずないわ。キョウも、いつまで、坊やにしがみついてるの? こっち、いらっしゃい」


 「知ってるさ。知った上で連れ出したんだ」


 「あら、そう。だったら、諦めて」


 僕の手を引っ張っぱりながら、冷たく言い放つ沙羅。


 「この子は、わたしのものなの。誰にも渡さない。いえ、渡せない」


 「なるほど、エルフかどうりで」


 しげしげと僕の顔を見て、何か納得している伯爵。


 「あの……、エルフって、僕のこと?」


 「マスター。またキョウちゃんが壊れてます」


 なぜかイフと手をつないで並んでいるルゥちゃんは、双子の姉妹のよう。二人一緒に尻尾をパタパタ振っている。


 「熱が出たのね。むさ苦しい男たちに囲まれて無理もないわ。引き上げるわよ。その前に、オシリス、あんたの魂胆は何? わたしたちを焚きつけておいて、わざと防御を薄くしたでしょ。まるで、わざわざここに誘き出すように」


 「さて、いわれなきことを言うのは、女のさがのようだな」


 顔色一つ変えることなくそう言うオシリス。




 「あれだけ騒ぎを起こして、よく追い出されずに済んだね。あたい、てっきり夕食はおあずけだと思ってた」とシャルマ。


 「むしろ、拘束されていると見るべきかも。あのオシリスは曲者よ。何を企んでいるのか分からないわ」と沙羅。


 僕たちは、元の部屋に戻されていた。当初の予定通り夕食にも招待してくれるらしい。


 「まあ、目的の伯爵にも会えたわけだから、結果オーライってことね」


 「サラ、あの……。僕がエルフだって、知ってたの?」


 歌姫は、僕のことを半妖の妖精体だと言った。沙羅は、エルフだと言う。それが同じことなのかさえ僕には分からない。グリフォンからはマスターと呼ばれ、レイには懐かれて、普通の人間ではないことは僕も自覚している。僕の知っているエルフは空想上の亜人種だったり妖精だったりするけど、この世界ではどういう意味があるんだろう。

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