その四十二 頭沸いてる?
伯爵は余裕の表情で近付いて来る。誰が蕾だって? 摘み取るってどういうこと?
うん、お約束通り、立派に変態だ。いや変態だなんて言ったら小次郎に失礼だ。あいつは変態なりに良いところもある。
「待って。兄上。俺そんなつもりでキョウを連れてきたんじゃなくて……」
カウルは、手を広げて僕を伯爵から庇っている。
「狂言を弄してキルギリア領への養子縁組から逃げ回っているおまえの都合なんか聞く耳は持たぬ。カウル。またどうせ戯言だろう」
生まれて以来一度も挫かれたことのなさそうな自信を全身から漂わせる伯爵。婚姻を政治の道具としか考えない一方で、領民の結婚式に招かれたら新婦との初夜を過ごす特権は領主にあるだなんて平気で言い出しかねない。そんな人物に見えた。
「心配するな。一ファンとして、歓迎したいだけだ。夕食の後は、私の部屋でじっくり可愛がってやるのも一興」
いや、あんたのその頭の中を心配するよ。
「僕、花でもつぼみでもネットアイドルでもないからね! 勝手に触るんじゃないよ! なんだよ、可愛がってやるって、それが初対面で言う言葉?」
「ほう。思った通り、愛でがいがありそうだ。このぐらい威勢が良い方が、屈服させた時の満足も大きい」
「ふざけんな! 誰が、屈服なんかするもんか! 貴族だか特権階級だか知んないけど。頭沸いてんじゃない?」
そう言う僕はカウルにしがみついたまま。背後は崖、逃げ場は無い。言い過ぎちゃったかな。いまさらそう思った僕。でも、もう遅い。
「オシリス。カウルを押さえておれ。このお転婆に作法というものを少しだけ教えておいてやろう」
「御意」
いつの間にオシリスが伯爵の後ろにいた。うん。ちょっとやばそうな雰囲気。何故って、オシリスがここにいたら、沙羅を見張ってるのは誰?
「マスター。ルゥ=サーミンからの緊急通信です。即刻退避を勧告すると。魔術結界が破壊されました」
同じ声だから、ルゥちゃんかと思ったけど、それは、カウルの足元に現れたイフだった。
「キョウ!」
ほらね。もう沙羅の叫び声が聞こえる。
「沙羅! レイ! 僕大丈夫だから、暴れないで!」
僕の叫びに構わず、レイはすでに戦闘モードでオシリスに疾風のように襲いかかっていた。
「レイ! やめて!」
第一撃をオシリスにかわされたレイは跳び退いて身構えている。
「お前たち。見張りの兵を付けていたはずだが」
オシリスが沙羅の前に立ち塞がった。
「あら、あの人達、見張りだったの。お疲れのようだったから、ちょっと休ませてあげたわ」と沙羅。
「うん。泡を吹いて倒れてたけど、死んではいないと思う。たぶん」とシャルマ。
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