その四十 特別な存在

 「さあ、これからが本番。伯爵と子爵令嬢の縁談を邪魔するの」


 「はい。沙羅、質問。どうやって邪魔するの?」


 と手を上げて言うシャルマ。


 「そ、それは……、大丈夫、ルゥ=サーミんがなんとかしてくれるから」


 と沙羅。ここまで来て、まさかのノープランで、ルゥちゃんに丸投げですか? ルゥちゃん、首を横に振ってますけど。


 そんなこんなで、いつものように騒いでいると、ドアをノックして、メイドさん四人と執事が、フルーツ満載のケーキに焼き菓子とお茶を運び込んできた。


 「ご夕食前のお茶のお時間です」


 メイドさんの一人がそう言った。


 レイは、目を輝かせてケーキに釘付けになっている。


 「すごい、こんなにいっぱい! でも、これ全部食べたら、せっかくの夕食が喉を通らないんじゃない?」とシャルマ。


 「ふん。それが上流階級のお作法なんでしょ」と沙羅。


 「はい、ディナーの時、女性は、小鳥がついばむ程度にしか口にしないというのが慣習です。そのため、食事前にお腹を満たしておくのです」とルゥちゃん。


 「馬鹿バカしい。わたしには関係無いから、がっつり夕食をいただくわ」と沙羅。


 「あたいに任せて! お菓子と食事は別腹だってとこ見せてやる。小鳥舐めんな」と、小鳥に怒られそうな発言のシャルマ。


 「ケーキ! ケーキ!」と、沙羅に切り分けてもらうのが待ちきれないレイ。


 僕は、彼女たちの騒ぎも上の空で、一番後ろで立っている執事に目を奪われていた。変装しているが、それはカウルだった。僕の視線を受けて、カウルは目配せを返した。そして、部屋を出てドアを閉める際、目で差し招くサインを送ってきた。


 「僕……、トイレ」


 「いっトイレ」とクッキー片手に手を振るシャルマ。


 急いでドアを出ると、屈強な衛兵が六人、廊下を挟んで二列に並んでいた。一瞬立ちすくんだ僕の手を強引に掴んで、衛兵の間をすり抜けるように走り出すカウル。


 廊下の突き当りを幾つか曲がった先の一室に、カウルと僕は駆け込んだ。


 「上手く連れ出せた。こうでもしないと、二人で話をすることすら出来ないもの」


 肩で息をしながら、そう言うカウル。走って乱れた金髪が上気した額にまとわりついている。駆け込んだ勢いで、顔が近すぎるけど……


 「カウル、僕、すぐ部屋に戻らないと。いなくなった事に気付いたらサラが暴れ出しちゃう」


 「大丈夫。今、沙羅の使い魔にメールを送ったから。夕食までの間、キョウを借りるって」


 「でも……」


 「そんなに、沙羅のことが気になる?」


 「うん、だって、あの子、普通じゃないから。特に、僕の事になると……」


 「俺、決めたんだ。沙羅と争ってでも、キョウの、……特別な存在になるって」


 そう言う真剣な表情のカウル。変に意識してしまって、顔もまともに見れない気がしていたけど、会ってみると平気だ。その代わり、カウルの濃い青色の瞳に磁力があるように目が離せなくなった。


 「ここで待ってて、すぐ着替えてくる。城内を案内してあげるよ」

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