その三十九 付き人その一

 「付き人、その一」


 片手を腰に、トランペットを持ち、背を反り返らせて言う沙羅。いつもの私服スタイル。


 「その二、です」


 と、ルゥちゃん。片膝を折ってスカートを持ち上げ、バカ丁寧にお辞儀をした。


 「付き人番号、その三。またの名をシャルマ!」


 緑色の髪をなびかせたシャルマは、クラリネットで謎のポーズを決める。


 「むー、むむっつ!」


 と、今日はメイド役のレイ。仔馬の下半身にもリボン飾りを付けて、僕のチューバを背中に乗せている。


 険しい表情で愛想笑いの影すら見せないオシリスの前に、こうして、僕たち顔を並べていた。


 「ご来客は、エスターシャ嬢一人とお聞きしておるが」


 「そうもいかないのよ。わたし、キョウの保護者だし。楽師の団長だし。この子一人での外泊は許可出来ないの」


 「城には美味しい食べ物がいっぱいあるって聞いたし」


 と言って、沙羅から横目でにらまれるシャルマ。


 「ケーキ!」とレイ。


 「立ち返れと言って聞き入れる様子も無いな。得体の知れない者が二、三人増えたところで大勢に影響はすまい。ついてくるがよい」


 険しい表情を崩さないまま踵を返したオシリスは、僕たちを先導して大股で城の中を歩き出した。中庭と大きな部屋を幾つか抜け、螺旋階段を上がると、長い廊下があり、両側にドアが並んでいる。その一室に、案内された。


 「夕食までの間、この部屋で控えておるがよい。勝手な外出は許さぬ。廊下には見張りの者を立てておるからな」


 そう言い残して、オシリスは部屋を出て行った。


 「相変わらず、いけ好かない奴。でも、上手く潜り込めて良かったわ」と沙羅。


 「見て見て! すごく大きなベッドがあるよ」


 と、天蓋付きのベッドに、早速、ダイブするシャルマ。


 「キョウ、一人のために、こんな大きな部屋を用意していたなんて、どんな魂胆があったのかしら」


 腕組みをして、いぶかしげに言う沙羅。いや、魂胆なんて無いと思うんですけど……。何か、とっても変な想像をしてませんよね?


 「残念だったね。キョウ。出迎えたのがカウルじゃなくて」


 そう、僕の耳元で言うシャルマ。わざと言ってるのが分かっていても、顔を赤くしてしまうのが悔しい。ただの友達なんだから、意識しないように思えば思うほど、変に動悸が耳に響いてしまう。


 「大丈夫。キョウの貞操はわたしが守ってあげる!」


 と、無駄に意気込む沙羅。


 「だから。そんなんじゃないってば! お友達として、招待してもらっただけなんだから」


 「そんなの、分かってるわよ。何、むきになって、顔真っ赤でやらしい想像してるの? 冗談くらい聞き流してよ」


 しらじらと言う沙羅。いや、あなたの場合、どこまでが冗談だか分かりません。

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